JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)

[MIS23-P01] 成長する結晶への不純物取り込みに関する新しい理論モデル

*三浦 均1 (1.名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)

キーワード:結晶成長、不純物分配、理論、表面過程

結晶中の不純物や添加物(以下,単に不純物とよぶ)の濃度は,結晶の品質やその物性を左右する重要な要素である。半導体結晶では,その電気伝導特性が不純物濃度に強く依存する。X線構造解析に用いるタンパク質結晶の完全性は,不純物の取り込みに大きく影響される。地球惑星科学分野においては,鉱物結晶に含まれる不純物濃度やその分布から,鉱物の形成条件を推定することもある。結晶特性の制御という工学的応用面においても,鉱物組成と成因との関係という理学的興味においても,結晶への不純物分配がどのような要因によって決まるのかを理解することは重要である。

 結晶に含まれる不純物の濃度は分配係数によって特徴付けられる。分配係数とは,結晶を構成する分子(以下,ホスト分子とよぶ)に対する不純物分子の濃度比に着目した量であり,(結晶中の濃度比)/(環境相中の濃度比)で定義される。分配係数が1であれば,環境相中の濃度比と同じ比率で結晶中に不純物が取り込まれることを意味する。一般に,分配係数は結晶の成長条件に依存することが実験的に知られている。分配係数を結晶成長速度の関数として定式化した理論モデルとしては,BPS理論[1]やSmithらのモデル[2]が挙げられる。これらのモデルはいずれも,成長する結晶周囲の濃度場の変化を考慮したモデルである。しかし,結晶成長の本質は,結晶表面における分子の取り込みである。不純物分子も,環境相から結晶表面に吸着したのち,表面拡散によってステップに到達して結晶に取り込まれるであろう。すなわち,不純物分子の表面過程を考慮することが本質的に重要である。ところが,表面過程のどの要素が不純物分配にどのような影響を及ぼすのか,それを解釈するための理論的枠組みは提案されていなかった。

 本研究では,不純物分子の結晶表面過程を考慮した新しい不純物分配モデルを提案する。分子の表面過程を考慮した結晶成長モデルとしては,BCFモデル[3]がまっさきに挙げられる。BCFモデルでは,結晶表面に吸着したホスト分子の面密度変化を拡散方程式で表現することで,吸着分子の定常面密度分布を解析的に導出し,ステップ前進速度を定式化した。すなわち,ホスト分子のステップへの取り込みを定式化したのである。今回検討すべきは,結晶表面に吸着した不純物分子がどのように表面拡散し,どの程度の量がステップへと取り込まれるかである。つまり,BCFモデルを不純物分子に対して適用できるように「拡張」すればよい。結晶表面に吸着した不純物分子の振る舞いは,ホスト分子とまったく同じ方程式で記述できる。ただし,結晶内(ステップ内)の分子面密度が,ホスト分子については既知であるのに対して,不純物分子については未知であり,これを決定する方法に工夫を要した。これらの要素を考慮した上で,不純物分子の表面過程の各要素をパラメータ化し,分配係数を定式化した。講演では,本理論の概要と,いくつかの興味深い結果について報告する。

 今回提案するモデルは,結晶成長の理論モデルとして広く受け入れられているBCFモデルを不純物に対して適用できるように拡張したものであり,層成長するさまざまな結晶に対して適用可能である。例えば,半導体結晶やタンパク質結晶への不純物分配の実験結果に対して,それを理論的に解釈するモデルとして有用であろう。BPS理論やSmithらのモデルでは説明できない鉱物結晶への不純物分配について,表面過程の重要性を示す指標となるかもしれない。今後,さまざまな結晶に対して本モデルを適用し,不純物分配における表面過程の重要性について理解を深めていきたい。



参考文献:
[1] J. A. Burton et al., J. Chem. Phys. 21, 1987-1991 (1953). [2] V. G. Smith et al., Can. J. Phys. 33, 723-745 (1955). [3] W. K. Burton et al., Philos. Thans. R. Soc. London Ser.A 243, 866 (1951).