JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS23] 結晶成⻑、溶解における界⾯・ナノ現象

コンビーナ:木村 勇気(北海道大学低温科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、佐藤 久夫(日本原燃株式会社埋設事業部)

[MIS23-P09] 水熱条件におけるノルセサイトBaMg(CO3)2の熱力学的安定性

*菅 光希1麻川 明俊1畝田 廣志1越後 至1磯部 馨1小松 隆一1 (1.山口大学大学院創成科学研究科)

ノルセサイトBaMg(CO3)2は圧電性を持ち、従来の圧電結晶より著しく高い複屈折(0.175)を示すため、新たな音響光学素子や波長変換素子として期待される。このノルセサイトの圧電素子特性を明らかにするためには、数mmの結晶を育成する必要がある。大気圧下でのノルセサイトの育成では、溶解度が著しく低く、成長速度が数nm/minと非常に遅いため、従来の炭酸塩の育成同様、1高温高圧水を利用した水熱合成法が有用と期待される。一方、水熱合成法では耐圧・耐熱の容器を使用するため、水熱合成による結晶化過程はブラックボックス化している。最近、我々の研究室では、循環型の水熱条件下をその場観察できるチャンバーを作製することに成功した。これにより、世界に先駆けて3MPa、150℃の水熱条件下で準安定状態の炭酸バリウムから溶液を介してノルセサイトが成長する様子(溶液媒介相転移)をその場観察することに成功した。2本研究では、水熱条件下でのノルセサイトの溶液媒介相転移機構を定量的に理解するため、溶解度計測から水熱条件におけるノルセサイトの熱力学的安定性を調べた。

粉末のノルセサイトを入れた水熱条件その場観察チャンバーに室温、大気圧下の純水をポンプにより導入し、チャンバーから大気圧中に戻ってきた溶液のpHを計測した。数時間純水をチャンバー内に循環させ、pHの変化より3MPa、各温度Tの溶解平衡を確認した。ICP発光分析と全有機炭素測定により、水熱条件でのノルセサイトの飽和溶液のBa²⁺、Mg²⁺、CO3²-濃度を計測した。

Fig.1に水熱条件と大気圧下でのノルセサイトの溶解度積Kの温度依存性を示す。水熱条件と大気圧下での溶解度積を結ぶ曲線は拡張したvan’t Hoffの式のフィッテイングした結果を示している。3MPaの水熱条件でのノルセサイトの溶解度積は大気圧下2と同様に、室温から40℃付近まで増加し、温度の増加に伴い減少していった。一方、水熱条件下でのノルセサイトの溶解度積は大気圧下に比べ平均的に5乗も低く、水熱条件下の方が結晶化しやすいということが明らかになった。

更に詳細に結果を理解するため、フィッテイングパラメーターより、水熱条件と大気圧下での溶解エンタルピーΔHと溶解エントロピーΔSを求めた。30℃でのノルセサイトと炭酸バリウムの溶解エンタルピーΔH298.15と溶解エントロピーΔS298.15は、それぞれ78.45 (kJ/mol) と-57.61 (J/mol/K) 、19.88 (kJ/mol) と-126.8 (J/mol/K) であった。また、90℃でのノルセサイトと炭酸バリウムの溶解エンタルピーΔH363.15と溶解エントロピーΔS363.15は、それぞれ-125.5 (kJ/mol) と-763.5 (J/mol/K) 、-221.2 (kJ/mol) と-856.3 (J/mol/K) であった。水熱条件におけるノルセサイトと炭酸バリウムの溶解エンタルピーと溶解エントロピーはともに、温度上昇によって、減少した。これらの結果を用いて、我々はノルセサイトと炭酸バリウム間の化学ポテンシャル差を計算し、水熱条件下の方がノルセサイトは結晶化しやすいということを明らかにした。

参考文献

1 Hirano S. & Kikuta K. J. Cryst. Growth 94, 351-356 (1989).

2 畝田 廣志、2018年度修士論文「ノルセサイトBaMg(CO3)2の溶液媒介相転移機構の解明」