JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-01] 風景写真を高山生態系の定量的解析に使う: カメラパラメータの自動推定とオルソ化技術の開発

*岡本 遼太郎1小熊 宏之2 (1.筑波大学、2.国立環境研究所)

キーワード:高山生態系、リモートセンシング、手持ちカメラ

高山生態系は気候変動に対して最も脆弱な生態系の一つであるが直接の調査が難しく、リモートセンシングが生態系の物理・生物環境の変化を観測する手法として重要である。地形的な不均質性が高く、狭い領域に多様な環境が混在する高山帯では、衛星画像は生態系の定量的解析に用いるうえで解像度が不十分である場合が多い。このため地上に設置された定点撮影カメラの高解像度な画像を用いて生態系を定量的に観察する試みがなされているが、得られるデータは時間・空間的に限られたものとなってしまう。

一方、手持ちカメラによる山岳風景写真は空間解像度や撮影頻度も高く、過去記録も豊富であるが、多くの場合撮影条件が不明であるため被写体の画像情報とその現実世界での地理情報とを結び付けることが難しく、生態系の空間的解析に用いられてこなかった。画像中の被写体を地理情報と対応づけ、同じ場所のほかの記録と比較可能な形にすることをオルソ化という。本研究では山の風景を写したインターネット上の写真や、過去のフィルム写真を用いて、高山生態系の定量的解析に利用可能な大規模なデータベースを作成することを目的に、写真の撮影パラメータ(撮影点、撮影角、画角、レンズ歪み)を自動で推定し、オルソ化する手法を開発した。

オルソ化アルゴリズムの概要を以下に示す。
①地形データを用いた登山道から見える地形の輪郭データベースの作成
②地形の輪郭の形状マッチングによる登山道上でのおおまかな撮影位置・撮影角・画角の推定
③②で推定されたパラメータと、航空写真、地形データを用いたシミュレーション画像の作成
④シミュレーション写真と風景写真のマッチングによる、風景写真のGCP (Ground Control Points)付け
⑤GCPをもとにした、遺伝的アルゴリズムによる撮影パラメータの詳細な推定
⑥⑤で推定された撮影パラメータによる風景写真のオルソ化

R言語を用いて山岳風景写真の撮影パラメータを自動推定し、オルソ化を行うプログラムを開発した。予め撮影条件のわかっている北アルプス立山の室堂山荘に設置された定点撮影カメラ写真を例に、撮影パラメータを全て推定して作成したオルソ画像と、撮影位置と画角を固定し、他を推定して作成したオルソ画像との間で、元画像の画素毎に推定された地理座標のずれを評価した。

撮影条件が全く分からない写真においても、その撮影パラメータを推定しオルソ化することに成功した。撮影位置と画角を与えて元画像の画素毎に推定したオルソ化後の地理座標とのずれは、推定された撮影位置のずれによて近景部分で特に大きく異なった。作成したオルソ画像においても特にこの部分で、不可視域の形状が大きく異なった。

現在、近景を考慮し、航空写真を必要としないパラメータ推定を可能にするために、写真に写った地形を機械学習で解釈し、地形モデルとの比較を行う技術を開発中である。また、機械学習による画像からの植生情報抽出との組み合わせによって、生態系の定量的な解析に用いることのできるデータを作成することを予定している。