JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-07] 山地の森林の雪崩に対する減勢効果

★招待講演

*竹内 由香里1 (1.森林総合研究所十日町試験地)

キーワード:雪崩、森林

山地の森林には雪崩の発生を防ぐ効果とともに,雪崩が発生して森林に流れ込んだ場合には流下する雪崩の進行を妨げる減勢効果があることが,早くから経験的には知られていた.しかし,森林の減勢効果に関わるデータを得ることは難しく,森林の効果は定量的に示されていない.本研究では,実際の表層雪崩に関するデータを元に森林の減勢効果を定量的に表わすことを目的として,雪崩の運動モデルを用いたシミュレーションを行なった.

対象としたのは,2008年2月に新潟県の妙高山域の幕ノ沢および2010~2011年冬期に岩手山で発生した大規模な表層雪崩である.どちらも森林のない標高の高いところで発生したのち高速で森林に流れ込み,広範囲で多数の樹木を倒壊させたものの,森林を抜けて下流へ行くことなく森林内で止まった.しかし,これらの状況だけでは森林が雪崩の流下を止めたと言い切ることはできない.雪崩は斜面の傾斜が緩やかになれば,森林がなくても速度が低下し,いずれは停止するからである.

そこで,雪崩の運動モデルを用いて実際の地形上で雪崩を流下させる数値シミュレーションを行ない,森林の有無による雪崩の速度や到達距離を比較した.この運動モデルでは,地形は考慮されているが,森林の有無という植生は考慮されていないので,森林の有無を雪崩が流下する際の底面摩擦角に置き換えて表わした.試行錯誤の結果,2008年の幕ノ沢の雪崩は底面摩擦角を 13~14°,スギ林内では底面摩擦角を 25°とすると,実際の流下距離とよく一致した.これに基づき,スギ林が無いと仮定してシミュレーションし,雪崩の到達距離を調べると,スギ林内を流下した実際の雪崩より,200 mも遠くまで達する結果になった.つまり,幕ノ沢のスギ林は,雪崩を減速させ,流下距離を200 m縮める減勢効果があったといえる.同様に岩手山の雪崩についても森林がないと仮定してシミュレーションを行うと,森林内を流下した場合より200 m~600 mも遠くまで流下した結果になった.これにより,流下する雪崩に対する森林の減勢効果を定量的に示すことができた.