JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-10] 中部山岳地域南部における大陸性気候に類似した雪面熱収支特性

*西村 基志1佐々木 明彦2鈴木 啓助1 (1.信州大学、2.国士舘大学)

キーワード:熱収支、積雪、山岳地域

雪氷体の分布域の変動や消耗速度を明らかにすることは全球的な気候変動の影響把握および様々なスケールの気候形成メカニズムを理解する上で重要な情報となる.特に季節積雪は氷河は氷床に比べてその分布域の変動性が大きく,また,その変動性は周囲の気候や気象条件に大きく依存する.したがって,積雪形成環境として高緯度雪氷圏に比べて安定していない温帯雪氷圏の季節積雪の動態は,気候変動の影響把握を行うという観点で貴重な情報となる.
雪氷面に出入りするエネルギーのバランスおよびその時間変動などの情報(雪面熱収支特性)は,雪氷体の消耗過程を理解する上で最も基礎的な情報である.本発表では,中部山岳地域南部に位置する上高地(標高1490 m),乗鞍高原(標高1590 m)および西穂高(標高2355 m)における気象観測および雪面熱収支解析の結果から,日本の亜高山帯における雪面熱収支特性を明らかにする.これら3地点における気象観測機器は信州大学によって設置・運用されており,本発表では2016/17年冬季の観測データを使用した.雪面熱収支解析には熱収支法を用い,乱流フラックスの解析にはバルク法を用いた.解析は各地点において積雪期に限定した.
中部山岳地域南部における雪面熱収支特性は,大陸性気候条件下に類似した特徴を示した.これは短波放射が雪面熱収支を支配し,潜熱フラックスによって積雪層からのエネルギーロスが起こっているという特徴である.この熱収支特性は,大陸の内陸部に位置する大陸性気候地域や山岳域の高標高帯において熱収支解析を行った先行研究の報告と類似している.これらの地域は,気温が低く,大気が乾燥しているために乱流フラックスによるエネルギーインプットが抑制される傾向にあるため,上記のような熱収支特性が形成されていると考えられている.一般に湿潤気候であると考えられている日本において,乾燥した大陸性気候条件下に類似した熱収支特性が見られたのは,中部山岳地域南部における特異性を示す結果である.
大陸性気候条件下に類似した熱収支特性が中部山岳地域南部で形成された要因として,当該地域の局地的な気候条件と地形条件の2つが挙げられる.日本の冬季モンスーンによって湿潤な空気塊が移流してくる過程で,急峻な山岳地形を有する中部山岳地域の風上地域で湿潤大気が強制的に持ち上げられることで多量の降雪が発生する.つまり,風下側に位置する中部山岳地域南部では半乾燥状態の大気が移流してくるために,同地域では大陸性気候条件下に類似した半乾燥的な大気環境,雪面熱収支特性が形成されたと考察される.