JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-11] 上高地において形成される冷気湖とその気象条件

*小山 紗莉1西村 基志2黒雲 勇希2鈴木 啓助3 (1.信州大学大学院総合理工学研究科、2.信州大学大学院総合工学系研究科、3.信州大学理学部)

キーワード:冷気湖

冷気湖は,よく晴れた静穏な夜間,閉鎖的な地形である盆地内において形成されやすい接地逆転層である.この冷気湖の形成過程について,特殊な例が報告されている.例えば, Dorninger et al. (2011) では,『日の出前に解消される冷気湖』や『形成時間が1時間未満の冷気湖』などの特殊な冷気湖形成をパターン化し,それぞれの形成要因を調べている.このような特殊な冷気湖の形成機構は様々な盆地で報告されており,それぞれの気候・地形条件によって地域特性がみられる.本研究では,盆地の底部(標高1490 m)と縁(標高2355 m)の標高差が大きい上高地において形成された冷気湖について,冷気湖構造をパターン化し,それぞれ気象条件が冷気湖の発達をどのように妨げるのかを検討する.
 本研究は,上高地(1490 m),岳沢(1600 m,1700 m,1800 m),西穂高岳(2355 m)を観測対象地点とする.観測項目は,上高地と西穂高岳では気温(℃),相対湿度(%),気圧(hPa),風向(degree),風速(m s-1),下向き・上向きの短波および長波放射(W m-2)であり,岳沢では気温(℃)のみである.各観測項目は,60分間隔のデータを使用する.解析対象期間は,2016年10月29日から2018年7月24日までである.また積雪期(上高地)は2016年12月6日から2017年5月3日,2017年11月15日から2018年4月15日である.本研究では,標高1490 m地点の気温が標高1700 m地点の気温より低い時,冷気湖が形成されたと定義する.
 本研究では,解析期間に形成された冷気湖を8種類の冷気湖形成パターンに分類する.この8種類の冷気湖の発生日数を,2016年10月から2018年7月までの月ごとにまとめると,全種類の冷気湖発生数について,冬に最も少なく,春に増加して夏と秋に最も多い傾向を示す.特に『静穏な発達』(一般的な冷気湖の形成)の発生日数の変動にこの傾向が顕著である.『静穏な発達』が形成されやすい気圧配置は移動性高気圧であり,上空の雲や強い風がほとんど発生しない天気であることが多いためと考えられる.また,移動性高気圧に覆われる日が冬に少なく,秋に多い傾向があるため,『静穏な発達』の発生日数の変動も同様の傾向を示したと考えられる.本発表では『再形成』と『短時間の冷気湖』の2つのパターンに着目する.『再形成』は,移動性高気圧に覆われて晴れた静穏な気象条件となって冷気湖が形成中に,上空の雲や風による大気の混合が短時間発生することで,冷気湖が一時的に解消されるプロセスが多い.逆に『短時間の冷気湖』は,気圧の谷の影響で上空の雲や風による大気の混合が発生し,冷気湖の形成には適さない条件の夜間,短時間雲や風が発生しなくなることで冷気湖が形成されるプロセスが多い.