JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS24] 山の科学

コンビーナ:鈴木 啓助(信州大学山の環境研究センター)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、佐々木 明彦(国士舘大学文学部史学地理学科 地理・環境コース)、奈良間 千之(新潟大学理学部理学科)

[MIS24-P08] 上高地・大正池における雪面アルベド低下の要因

*大塚 美侑1鈴木 啓助1西村 基志2 (1.信州大学理学部、2.信州大学大学院総合工学系研究科)

キーワード:雪面アルベド、積雪不純物質、積雪粒径

はじめに

積雪融解の最大要因は日射である. 雪面アルベドの低下は雪面の日射吸収量を決定するため, 積雪融解プロセスを理解する上で重要な役割を持っている. 雪面のアルベドは特に積雪粒子の大きさ(積雪粒径)と雪面の汚れ(積雪不純物質)に強く依存することが知られている (Warren and Wiscombe 1980). 積雪不純物として黒色炭素や鉱物性ダスト, 有機炭素が挙げられるが, 見られる不純物の特性によってアルベドの低下効果は大きく異なる. 上高地の大正池の研究サイトの積雪において, 主な融解熱はアルベド低下による短波放射収支量の増加であることはすでに報告されているが(西村 ほか 2018), アルベド低下をもたらす要因はまだわかっていない. そこで上高地・大正池の研究サイトにおいて2017-2018年と2018-19年の2積雪期を対象に調査を行ない, 見られる積雪不純物質の特性および積雪不純物質の雪面アルベドへの影響評価, さらに積雪粒径の雪面のアルベドへの影響評価を行い, 積雪融解を促進する雪面アルベドの低下をもたらす要因解明を本研究の目的とした.


研究方法

2017-2018年および2018-19年の2積雪期に上高地大正池北岸周辺において, 積雪サンプル採取, 積雪断面観測 (層構造, 密度, 含水率, 雪質, 粒径), さらに放射収支計による雪面アルベド観測を行った. サンプルはクリーンルームに持ち帰り,電気伝導度, pHを測定し, 主要イオン濃度をイオンクロマトグラフィーを用いて分析を行なった. 積雪不純物質濃度(重量濃度)は石英繊維フィルターを用いて, 強熱減量試験法により有機物・無機物量を求めた後, 電子顕微鏡写真も参考に解析を行なった. 積雪粒径には画像解析ソフトImageJを用いた.

結果・考察

上高地・大正池において見られる積雪不純物質は, 主に有機物は植物花粉であった. 無機物に関しては, 涵養期には主に黄砂が見られたが, 融雪期に入ると土壌粉じんも見られることがわかった. 有機炭素が雪面のアルベド低下に寄与しないことはすでに報告されている. 2019年2月に行なった集中観測の結果より, 涵養期には無機積雪不純物質とアルベドの関係は示唆されたが, 積雪期全体で見ると積雪不純物質濃度は一度上昇傾向を見せるも融雪期後半には流出するため, 目立った雪面アルベドとの関係は見られなかった. よって本研究地点において積雪不純物質は雪面アルベド低下への寄与は小さいと考えられる. 一方, 積雪粒径と雪面アルベドの関係を見ると決定係数は0.82と高く, 主に雪面のアルベドに影響を与えるのは積雪粒径であると考えられる. また積雪不純物質がアルベドに寄与しないことから, 融雪を促進するアルベド低下の要因は温度上昇による積雪粒径の増加であることがわかった.