JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-18] 東北地方太平洋沖地震前後における三陸沖陸棚斜面の底層環境の変化

*脇田 昌英1渡邊 修一1吉野 順2小栗 一将1野牧 秀隆1川口 慎介1有吉 慶介1永野 憲1藤倉 克則1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.東北環境科学サービス(株))

キーワード:東北地方太平洋沖地震、陸棚斜面、底層環境

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震による沿岸域からの土砂等の流入により、海底地形や海底表層状況が変動し、生物資源の生息環境が変動する可能性がある。その変動を捉えるため、これまで沖合の「海洋生物資源(漁場)環境の長期モニタリング」を実施してきた。また、三陸沖合の陸棚斜面は、クモヒトデ、ナマコ、腹足類、ホラアナゴ、キチジ、ギンザメなどの生物が生息している(e.g., Oguri et al., 2016)。本研究では、三陸沖の陸棚斜面において、生物が生息する底層環境に地震活動が及ぼす影響を評価することが目的である。

 2011年3月11日の本震以降、海洋地球研究船「みらい」(MR11-05:2011/7、MR12-E02:2012/3、MR12-02:2012/7、MR13-04:2013/7)、北海道大学水産学部附属練習船「おしょろ丸」(OS252:2013/3)、東海大学海洋調査研修船「望星丸」(BO13-20:2013/11)、東北海洋生態系調査研究船「新青丸」(KS-14-3:2014/3、KS-15-13:2015/10、KS-15-15:2015/11、KS-16-2:2014/3、KS-17-J05:2017/3、KS-17-J08C:2017/6)学術研究船白鳳丸(KH-18-J03C:2018/8)において、三陸の八戸沖、宮古沖、釜石沖、女川沖、仙台湾、福島沖の測線において、表面~海底(最大深度約2000 m)までのCTD・観測と海水試料の採取を行い、水温・塩分・溶存酸素・透過度・栄養塩・溶存無機炭素・溶存有機炭素・アルカリ度・全溶存窒素・海水の酸素同位体・メタン・メタン炭素同位体などを分析した。さらに、本震前後変化を調べるため、2005~2015年の気象庁で実施された三陸沖の観測結果も用いた。

 本震後の観測結果から、福島沖から八戸沖までの広範囲に渡って、三陸沖の陸棚斜面の底層には、濁度の高い層が存在し、2018年まで確認された。また、水深1000m~2000m(等密度面27.38 sigma theta~27.56 sigma theta)の陸棚斜面の底層水では、濁度が増加すると、溶存酸素が減少するという有意な負の相関関係が見られた。そこで、本震前後において、底層水(等密度面27.38 sigma theta、27.56 sigma theta)の溶存酸素を比較すると、溶存酸素濃度は有意に約12%低下しており、その低下は2018年も続いていた。また、2018年3月の気象庁が発表した余震活動の推移によると、陸棚と陸棚斜面上では、余震活動が継続している。従って、本震後、陸棚斜面の底層水の環境は変化し、溶存酸素は低下したが、断続的な余震動によって海底付近の攪乱が続いているため、広範囲に渡って、その変化が維持されていることを示唆している。

 加えて、沿岸海底堆積物中にメタンは大量に存在し、酸素は非常に乏しいことから、KS-15-15航海において、大槌沖と女川沖の陸棚斜面の底層水において、メタンとメタン炭素同位体を分析した。その結果、メタンと濁度には有意な正の相関関係が見られたことから、海底に堆積した粒子が、余震の地震動により巻き上げられ、海水が懸濁することによって、陸棚斜面上の底層水のメタン濃度が増加し、溶存酸素濃度が低下したことを示している。これは、余震活動継続による底層環境の変化の維持を支持している。また、増加したメタンの起源を炭素同位体比から確かめた結果,水深約2000m(27.56 sigma theta)における陸棚斜面の底層水には、海底面付近の堆積物に加え,海底下1000 m以深の非常に深いところから放出されたメタンも含まれていることが示唆された(Kawagucci et al., 2012)。