JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-P02] 現場環境下における都市河川中の脱窒・同化・硝化速度定量法開発

*中川 書子1鈴木 謙介1伊藤 昌稚1角皆 潤1 (1.名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:都市河川、脱窒、同化、硝化、三酸素同位体

植物の光合成(一次生産)の多くを律速している固定態窒素(NO3-やNH4+、Org-Nなど)が、近代以降に拡大した人間活動により、河川水中に大量に排出されるようになった。その結果、過剰となった固定態窒素が河川およびその下流の水域(湖沼や海洋)の一次生産を過度に高め、生態系を大きく攪乱している可能性が高く、大きな問題となっている。ただし、河川に入った窒素は全てがそのまま輸送される訳ではない。一部は脱窒によりN2化し、河川から除去される。従って、生態系に対する人間活動の影響を正しく評価し、対策を講じていく上で、河川の流下過程における窒素の動態、特に河川環境下における脱窒速度の時空間変化の正確な把握が不可欠である。河川水は一般に酸化的であるため、窒素はNO3-として下流域に運ばれることが多い。河川水中のNO3-は、人間活動などを通じて系外から供給される他、河床から硝化反応によって供給される。一方で微生物による脱窒以外に藻類による同化(Org-N化)によって除去される。つまり、河川水中のNO3-濃度は、供給過程(系外からの流入・系内の硝化)と除去過程(脱窒・同化)が混在して変化しており、ここから脱窒過程だけを抽出することは難しい。そのため、これまでは培養法を用いて河川環境中の脱窒速度の定量化に挑戦してきたが、脱窒速度は酸化還元環境の微小変化を反映して大きく変化するため、同じ環境を培養系内に再現することが難しいという問題点があった。

そこで本研究では、河川水に溶存する硝酸(NO3-) の濃度と三酸素同位体組成(Δ17O値= δ17O –0.52 ×δ18O) から算出される大気NO3-濃度に着目し、この時空間変化を追跡することによって、現場環境下における河川中の脱窒、同化、硝化速度の個別定量に挑戦した。特に、人間活動の影響の大きい都市河川を研究対象とした。観測は、2018年8月、10月、12月、2019年3月、7月に天白川(愛知県)で行った。支流などの系外流入が無視できる観測区間を選び、その入口と出口において2時間毎に24時間観測を行った。2地点間の大気NO3-濃度の差からNO3-除去速度を見積もり、これと全NO3-濃度の差から硝化速度を見積もった。夜間のNO3-除去速度から脱窒速度を昼夜のNO3-除去速度の差から同化速度を見積もった。その結果、脱窒速度が2.4〜4.7 mmol/m2/h、同化速度が0.5〜2.1 mmol/m2/h、硝化速度が2.1〜5.5 mmol/m2/hであった。各速度とも夏季に大きく、冬季に小さくなる季節変化が見られた。本研究で得られた脱窒速度を用いて、海洋に対する窒素負荷軽減量を推定したところ、天白川から海洋へ輸送される窒素の約30%が河川系内における脱窒によって抑制されていることが明らかになった。