JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-P04] 放牧・耕作地由来の窒素が分水嶺を超えて森林渓流水質に与える影響

*福島 慶太郎1岩﨑 健太2小田 義也3境 優4大西 雄二1木庭 啓介1堅田 元喜5山口 高志2久保田 智大5永野 博彦6渡辺 誠7小嵐 淳6 (1.京都大学、2.北海道立総合研究機構、3.東京都立大学、4.中央大学、5.茨城大学、6.日本原子力研究開発機構、7.東京農工大学)

キーワード:硝酸態窒素、安定同位体、地下水湧出、渓流水質

【背景と目的】
 森林における水・窒素の流出および収支を定量的に把握する上で,「集水域」が空間スケールの最小単位となる。大気から集水域内に流入した反応性窒素が,植物-土壌間の内部循環系に取り込まれ,その一部が渓流を通して集水域外へと流出する。この流入と流出のバランスをもって,生態系内の窒素保持機能が評価される。
 ここで大前提となっているのは,水や窒素収支が集水域内で「閉じている」ことである。つまり,集水域内に流入した水・窒素が渓流へと流出するのであり,集水域の境界(分水嶺)をまたいだ水・窒素のやり取りは無視されている。この前提は,果たしてすべての森林に適用できるだろうか? 仮に森林集水域の水収支が閉じていない場合,森林の窒素保持機能が正しく評価されないのではないだろうか? 本発表では,集水域の水収支が閉じていない可能性のある森林における,渓流水の窒素濃度の形成メカニズムの解明を目的として開始した研究を紹介する。

【対象地域および方法】
 本研究は,北海道道東の根釧台地西部に位置する京大フィールド研・北海道研究林標茶区を中心に行う。研究林は分水嶺をはさんで広大な放牧地・耕作地と隣接している。根釧台地は,黒色火山灰土が厚く堆積した火砕流台地で,表層地形と土壌深層の不透水層の地形が一致していない可能性が高い。研究林内の集水域において流量・水質観測を行い,水と窒素の収支を調べた。また,複数の渓流水を踏査し,渓流水を構成する谷壁・河床湧水の水質を測定した。

【結果と考察】
 研究林内の1集水域における水収支は,河川流量が降水量の約1.5-2.1倍と集水域外からの地下水流入の可能性が示された。窒素収支は流入量4-6kgN/ha/yrに対して流出量が7-10kgN/ha/yrであり,窒素保持機能が低い結果となった。渓流には河床から豊富に地下水が湧出している地点が多く見られ,湧水のNO3-およびCl-濃度とNO3-のδ15N値が高かった。これらの結果を踏まえ,森林集水域外の放牧・耕作地由来の窒素が分水嶺を超えて湧出している可能性について検討していきたい。