JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-P08] 火山性酸性河川の生物地球化学的特徴と底生生物群集構造

*丸茂 一貴1岩田 智也1青谷 晃吉谷田 一三2野田 悟子1河西 希1雪 真弘3 (1.山梨大学、2.大阪市立自然史博物館、3.国立研究開発法人理化学研究所)

キーワード:化学合成生態系、硫黄酸化細菌、火山性河川

深海の熱水噴出孔で光エネルギーに依存しない化学合成生態系が発見されて以降、還元的物質を酸化して得られるエネルギーを用いて有機物合成を行う化学合成細菌と、それに依存した無脊椎動物群集が多くの深海底から報告されている。しかし、化学合成生態系の存在は深海や地底湖以外ではほとんど報告されていない。地表には火山フロントに沿って火山性温泉が多く分布し、地下からは高温・酸性の温泉水が噴出している。このため、温泉水が流入する周辺河川は極限環境となり、河川食物網を支える有機物源が極端に少ない。このような火山性温泉水が流入する河川においても底生無脊椎動物が高密度に生息しており、火山から供給される還元物質に依存した化学合成生態系が地表にも存在している可能性がある。そこで、本研究では酸性河川の物理化学環境と底生無脊椎動物群集の基礎的知見を得ることを目的に、火山性温泉水が流入する河川の生物群集構造と生物地球化学的特性の調査を行なった。
 2019年6月6日~8日、秋田焼山周辺の火山性温泉水が流入する3河川と中性の対照河川を対象に野外調査を行った。各河川では、物理環境と水質項目の測定、底生無脊椎動物の採取などを行った。また、カワゲラ目の一種(スカユオナシカワゲラNemoura saetifera Shimizu, 1997)が高密度に生息する1河川では、現場培養実験を行った。河川の物理化学環境を比較すると、pHや水温は、河川ごとに大きく異なり、とくに火山性温泉が流入する河川では溶存硫化物濃度が高い特徴が認められた。また、これらの河川における付着藻類現存量や粒状有機物現存量も低かった。次いで、底生無脊椎動物の群集構造を河川間で比較したところ、火山性温泉の影響を受けている河川では近隣の中性河川と比べて水生動物の生息密度が1〜2桁高いことが明らかとなった。また、火山性温泉が流入する河川ではオナシカワゲラ科やユスリカ科が優占する特異な群集構造がみられ、特殊な河川環境に適応した種が群集内で特異的に優占しており、捕食者や競争種が少ない環境下において個体数を大きく増加させていると考えられた。火山性河川の生物群集を支える一次生産プロセスを推定するために、現場培養実験を行なったところ、光条件に関わらず溶存硫化物濃度および溶存無機炭素が培養瓶内で大きく減少していた。一方、溶存酸素は増加していなかった。このことから、炭酸の消費に酸素発生型および非酸素発生型光合成が寄与しているとは考えにくく、硫黄酸化細菌などの化学合成細菌によって炭酸固定が行われている可能性が示唆された。本培養実験の結果から化学合成速度の試算を行うと0.75 gC m-2 d-1の推定値が得られた。この一次生産速度は、一般的な河川における酸素発生型光合成による総生産速度と比べて決して低いわけではない。