JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-P11] 北海道北部の林床植生が密生する天然林集水域における異なる森林施業が窒素溶脱に及ぼす影響

*福澤 加里部1 (1.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

キーワード:硝酸イオン、皆伐、掻き起こし、ササ

森林伐採などの人為攪乱は、森林の窒素動態を変化させ、土壌から河川への窒素溶脱を引き起こすこと懸念されている。林床植生が豊富な森林では、樹木稚樹の初期定着を改善するために、樹木伐採後に機械による地表処理が一般的に行われている。北海道北部の冷温帯林では、主にササ類からなる林床植生が高密度で繁茂し、伐採後の森林の更新を阻害する。そのためササを表土ごと除去する「掻き起こし」が行われてきた。しかし、そのような森林施業が集水域スケールで河川水質に及ぼす影響はよく理解されていない。本研究は、北海道大学雨龍研究林(JaLTER, 北海道北研究林)内の冷温帯林の代表的な林床植生であるササが密生する天然林において、集水域ごとに異なる森林施業を行い、その前後を含めて2003-2016年までの14年間にわたり定期的に河川水質を測定、比較することにより、森林施業が窒素溶脱に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。各集水域での異なる森林施業は、皆伐、ササ掻き起こし、表土戻しを含む。また気候や環境、植生の長期的変化が河川水質に及ぼす影響を調べるのに有用な、森林施業処理を行わない対照区も設けた。採水および測定は10 集水域の各末端にて行った。ろ過後に硝酸イオン、アンモニウムイオン濃度を分析した。またpH、電気伝導度(EC)を測定した。また河川流量、水位、水温を測定した。
全処理区の全期間において硝酸イオンは0.01-8.68 mg L-1の範囲で変動した。対照区と皆伐区について、硝酸イオン濃度を目的変数、時間と集水域を説明変数として伐採前後を含む全観測期間のデータを用いて共分散分析を行ったところ、時間と集水域は有意に影響していた(P < 0.001)ことから、硝酸イオン濃度は観測期間中上昇していること、集水域により濃度が異なることが示唆された。一方時間と集水域の交互作用は有意ではなく(P = 0.37)、時間変化パターンは集水域によらず同一であった。つまり皆伐区での硝酸イオン濃度の上昇は認められなかった。一方、掻き起こしおよび掻き起こし・表土戻し処理区では硝酸濃度は上昇し、掻き起こし区では、処理から7年後に、掻き起こし・表土戻し区では掻き起こし処理から5年後に最大濃度に達した。両処理区の間では掻き起こし・表土戻し区で硝酸イオン濃度がより高かった。以上から、皆伐をしても河川水の硝酸イオン濃度上昇がみられないこと、ササを除去する掻き起こし、表土戻し処理により濃度上昇すること、掻き起こし・表土戻し処理が最も応答時間が短く濃度上昇程度が大きいことが明らかになった。本研究から、森林における皆伐後の窒素保持における林床植生ササの役割が示された。