JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS25] 生物地球化学

コンビーナ:木庭 啓介(京都大学生態学研究センター)、柴田 英昭(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)、大河内 直彦(海洋研究開発機構)、山下 洋平(北海道大学 大学院地球環境科学研究院)

[MIS25-P13] 北海道東部の冷温帯林における亜酸化窒素発生量と環境要因の関連性

*長根 美和子1柴田 英昭2内田 義崇3舘野 隆之輔4杉本 敦子5 (1.北海道大学 環境科学院、2.北海道大学 北方生物圏フィールド科学研究センター、3.北海道大学 国際食資源学院、4.京都大学 フィールド科学教育研究センター、5.北海道大学 北極域研究センター)

キーワード:亜酸化窒素、森林土壌、土壌微生物

亜酸化窒素(N2O)は強力な温室効果ガスの一種であり、森林における窒素循環の微生物過程(硝化・脱窒)を通じて生成される。土壌からのN2O発生フラックスは、地温、土壌水分、土壌pH、窒素の存在量等の要因により制限される。しかしこれらの環境要因による相対的な寄与は、生態系が位置する立地環境や気候の種類によって異なる。その中でも植生によってN2O放出量に差があるのかどうかについては、研究事例によって異なる上、要因ははっきりしていない。本研究では、異なる植生間におけるN2O発生量の変動要因は、供給されるリターの質(CN比、難分解性有機物等)だけではなく、土壌微生物の機能遺伝子の存在量や、窒素循環に関わる環境要因(地温・土壌水分・pH)も影響していると仮定を立てた。そこで北海道東部に位置する冷温帯林において、環境要因と微生物要因の両方を含めて、森林土壌からのN2O発生に対する時空間変動パターンとその要因を解明することを目的とした。下層植生にササ(Sasa nipponica)を持つミズナラ(Quercus crispula)林と、トドマツ(Abies sachalinensis)林を対象とした(2 植生×3 反復=計6 区画)。N2O発生量の観測は、クローズドチャンバー法を用いて、2019年4月、6月、7月、10月に行った。同時に、チャンバー付近の地温、土壌水分、無機態窒素(NO3-N、NH4-N)、溶存有機炭素(DOC)、土壌pH、窒素循環に関わる土壌微生物の機能遺伝子(AOA(アンモニア酸化古細菌)、AOB(アンモニア酸化細菌)、nirKnirSqnorBnosZ1))のコピー数を定量した。一般加法モデル(Generalized additive models: GAM)を用いて、N2O発生量を目的変数として、植生ごとにベストモデルを作成した。

年間の平均N2O発生量は、ミズナラ林では8.75 μg N m-2 h-1(±4.45 SD)、トドマツ林では7.41 μg N m-2 h-1(±3.51 SD)であった。植生間におけるN2O発生量は、植生による有意な違いは見られなかったが、ミズナラ林・トドマツ林それぞれ最も地温が高い7月に、最も高いN2O発生量が観測された。地温はいずれも、両方の植生で-1.5°C〜21°Cの範囲で推移していた。GAMによる解析の結果、ミズナラ林では、NH4-N、nosZ1、DOCが、トドマツ林では、地温、土壌水分、nirKがベストモデルの変数として選択された。DOCは脱窒プロセスにおいて土壌微生物のエネルギー源となるためベストモデルに選ばれたと推測される。nosZ1は、N2OをN2に還元する機能遺伝子であるため、完全脱窒により、N2OがN2まで還元することでN2O発生量の低下が見られたと考えられる。一方トドマツ林土壌におけるベストモデルには、土壌水分や、地温といった土壌取り巻く環境に関する要素が選択された。このことから、トドマツ林土壌を取り巻く物理的環境の変化が相対的に大きいためであることが考えられる。トドマツ林土壌は常緑針葉樹であるため林冠が閉じていることから、春先に気温の影響を受けやすく地温・土壌水分が大きく変化する。亜硝酸還元に関わるnirKは土壌水分が低いときに阻害を受けるため、土壌水分と共に選択されたと考えられる。本研究の結果から、異なる植生間において、年間を通じたN2O発生量に有意な違いが見られなかったが、N2O発生量に影響を及ぼす要因が異なることが示された。ミズナラ林土壌は、土壌微生物に対する資源(窒素・炭素)といった、土壌の化学的要因が影響を及ぼしており、トドマツ林土壌では地温・土壌水分率といった物理的要因と、物理的要因に影響を受ける機能遺伝子による関与があることがわかった。