JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS26] 地震・火山等の地殻活動に伴う地圏・大気圏・電離圏電磁現象

コンビーナ:児玉 哲哉(宇宙航空研究開発機構研究開発部門第一研究ユニット)、長尾 年恭(東海大学海洋研究所)

[MIS26-03] 巨大地震前に起こるTEC変化:2011年東北沖地震前に観測された偏角変化について

*高坂 宥輝1日置 幸介1 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻)

キーワード:地震前TEC変化、地震前の磁場偏角変化

2011年東北沖地震を契機に地震の前兆が地球の超高層大気である電離圏の電子数の変化として現れることが見いだされた(Heki, 2011)。原因となる物理過程に関しては未解明な部分も多いが、他の多くの巨大地震の直前の例においても同様の結果が確認されており、本格的な断層滑りが始まる前に地震の最終的なサイズがある程度決まっていることも示唆されている。

本研究では、上で述べた電離圏電子数変化が地震前に起こる原因となる物理過程の解明に向けて、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星から発せられる周波数の異なる2種類のマイクロ波の位相データを使用し、電離圏の全電子数(Total Electron content、TEC)を求めることにより、地震直前から地震直後までの電離圏全電子数の変化を、地震の前兆が認められた18の地震について解析した。そして、それらのデータを使用し地震前TECの変化の標準曲線を導出した。その標準曲線を用いて、原因となる物理過程を先行研究や地震のスケーリング則と照らし合わせて考察した。標準曲線から、地震直前のTECの増加は前兆の開始時に急速に増加し、地震の発生に近づくにつれて緩やかに減衰していくことが確認された。また、地震の発生後にはTECは増加しないことが確認された。このような電離圏電子数変化は、地震直前に断層上の地表面に蓄積した電荷が電離圏に新たに作る電場により、電離圏の電子が地磁気に沿って移動することで説明される。


上で述べた電離圏に新たに作られた電場による電子の移動によって、地震前の地表面に新たな磁場が発生していたことが2011年東北沖地震直前の地磁気観測所データの解析により示唆された。
柿岡等の地磁気観測所と、鹿屋地磁気観測所の地磁気の比較によって、地震前に地磁気の偏角成分の変化が起こっていたことが確認された。この偏角成分の変化から推定した新たな磁場を、東北沖地震直前の電離圏電子数の3Dトモグラフィーから推定した地震直前の電離圏の電流から計算された磁場と比較したところ、観測結果は計算結果と比較して震源北側でも偏角成分の変化が起こっていることが確認された。この原因として、極域電流による地磁気変化の可能性を考えた。実際に地震発生日には極域で大きな地磁気擾乱が発生していたことが確認されいる。この効果を考慮するために、地磁気三成分の変化を、地震前TEC変化による地磁気擾乱の影響が少ないと考えられる鹿屋局と、全国の観測点の地磁気変化の相対値として求めた。その結果、高緯度ほど地磁気擾乱が大きいことが確認され、かつ地震直前の地磁気擾乱は例外的に特に震源南で偏角変化が大きかったことが確認された。このことから、地震直前には震源の南で比較的大きい磁場変化が起こっていたことが示唆され、地震前TEC変化の物理過程モデルから計算された地磁気変化との整合性が確認された。