JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 歴史学×地球惑星科学

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS28-08] 樹木年輪プロキシデータに基づく「気候リスク」の定量化とその適用

★招待講演

*原田 央1芳村 圭2水谷 司2 (1.東京大学生産技術研究所芳村研究室、2.東京大学生産技術研究所)

キーワード:プロキシデータ、空間代表性、信号処理、歴史、気候

人間社会は気候との関係性の中でその歴史を刻んできた. 近年では Anthropocene とも 言われるように人間活動が気候変動にも影響を与えていることから、かつてと異なる位相 において、全球的な気候変動がどのように我々の生活に影響を及ぼすか多くの議論や研究 が行われている.
それと同時に有史以来の気候変動が具体的にどのような変容を人間社会に迫ったかにつ いては多くの研究者の心を捉えて離さない. 100 年以上に及ぶそのような研究は proxy デー タやビッグデータの登場により、20 世紀後半から多くの成果を残してきたがまだ課題は多 い.
具体的には proxy データの影響範囲が未確認であることや、proxy データの波形を直接歴 史イベントとの比較に用いるなど、気候から人間社会への影響を可能性としてほのめかす 程度に留まっていることなどがあげられる.そこで本研究では、人の一生のスパンに等しい 数十年周期の気候変動が人間社会に影響を与えたと仮説を立て、信号処理手法を用いて気 候変動と歴史との関係性に新たな地平を切り開くことを目的とする.
まず近距離にある proxy データ同士は類似した波形を示すと考えられるため、自己相関 関数を用いた相関値の比較によりproxyデータの影響範囲を定めた. 基準となるproxyデー タから離れるにしたがって相関値は小さくなり、とある距離を超えると相関値は 0.2 前後に 収束することが確かめられた. ここから数理的に空間代表距離(Spatial Representative Distance=SRD)を定義することができた. SRD は地理的な特徴を反映していること確かめ られた.
次に求められたSRDに基づいて、気候変動の指標化を試みた. 短時間周波数解析(Short Time Fourier Transform=STFT)によって非定常な気候変動を検出することが可能になる. また得られた気候変動を任意の地点と年において数値化する指標を気候影響因子(Climatic Impact Factor=CIF)と名付け、主に距離に反比例する形で proxy データごとの気候変動の 重み付けを行った. そうして計算された CIF は例えば小⻨の価格トレンドと非常に良く合 致するなど、気候変動が人間社会へと及ぼした影響を示していると考えられるため、仮説を 裏付ける結果となった.
最後に CIF を用いて歴史イベントとの関係性について議論を行った. CIF と小⻨価格と の相関関係を利用して、史料によって確認されている飢饉について一部その発生メカニズ ムを解析した. また CIF によって評価された地域ごとの気候変動に対する脆弱性と戦乱と の比較からは、気候が戦乱に直接影響を与えるわけではないことが示唆された.
本研究の結果は、proxy データと人間活動のデータが得られる地域において、気候と人間 社会との関係性に関する量的かつ順を追った議論を行うための基礎として運用されていく ことが期待される.