JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 歴史学×地球惑星科学

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS28-P05] 天気記述を日射量としてとりこむ大気データ同化: 現代の1年の事例による性能評価

*増田 耕一1Panduka Neluwala2取出 欣也4,3芳村 圭3田中 秀憲5宮崎 将5野澤 恵5市野 美夏6大久保 優7,8平野 淳平7 (1.東京都立大学 地理学教室、2.Peradeniya大学 土木工学科、3.東京大学 生産技術研究所、4.Washington大学 大気科学科、5.茨城大学 理学部 地球環境科学、6.人文学オープンデータ共同利用センター、7.帝京大学 史学科、8.専修大学 環境地理学科)

キーワード:歴史時代の気候、データ同化、日記天気記録、温帯低気圧

観測機器による気象観測が始まる前の気候についての情報を得るために、年輪その他の自然物とともに、人による文書記録が利用できる。とくに日本では、毎日の天気の記述をふくむ日記が豊富にある。他方で、データ同化技術が発達して、予報モデルの予報変数でない量の観測値もとりこむことができるようになった。機器観測がなかった時期についても、天気記述を、気象モデルによるデータ同化の入力とすることによって、多種類の気象要素の時空間分布を推定することができるだろうと期待する。

ここでは、この方法を、機器観測のある時期に適用し、実況にある天気現象をどのくらい再現できているかを検討する。

同化システムとしては、NCEPの季節予報で2004年まで使われていたGSM (全球スペクトルモデル)に、Miyoshi (2011, Monthly Weather Review)のLETKF (局所アンサンブル変換カルマンフィルター) を組みこんだものをもちいる。ここで用いるGSMの空間分解能は T62 (格子間隔 約 250 km)、28層である。境界条件となる海面水温は、NOAA OISSTの月平均値を日ごとに時間内挿して与えている。

日記の天気にかわる現代のデータとして、気象庁の天気概況をもちいる。地点は、日本全国から、GSMの格子の各マス目に1地点という基準で、18地点を選んだ。毎日の昼の天気概況の記述を、「晴れ」「くもり」「雨・雪」の3段階に分類し、市野ほか(2001, 天気; 2018, 地学雑誌)の方法で、日ごとの全天日射量に変換した。これを6時間ごとに分配して、地表での下向き短波放射フラックスの観測値として同化システムに与えた。また、同じ天気概況の記述から、降水の有無を判別し、「降水なし」のばあいに、降水量の観測値 0 を与えた。これを「天気同化実験」とする。比較対象として、観測値を与えない「観測なし実験」もおこなった。実験対象期間は、1995年の1月1日から12月31日までの1年間である。LETKFのアンサンブルのメンバー数は30とした。

同化結果のうちで、おもに海面気圧、補助的に 850 hPaの渦度と降水量のそれぞれアンサンブル平均の解析値を見た。実況の情報としては、JRA55および地上天気図を用いた。

実況で日本付近を温帯低気圧が通ったばあい、天気同化実験でも、日本付近から東海上にかけて、実況と同様な位置に低気圧が現われることが多い。ただし、強さは対応するとはかぎらない。観測なし実験では気圧の谷の位置が実況とまったくあわないので、天気情報をとりこんだことは有効と考えられる。台風はあまりよく再現されない。これは、大気モデルの空間分解能があらいこと、および、台風の経路と観測点分布とが重なる時間が短いことによると考えられる。また、梅雨期の天候もあまりよく再現されない。季節別にみると、この技法は、春・秋の天候の再現に有効と考えられる。