JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 歴史学×地球惑星科学

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS28-P08] 19世紀日本の天候と市場経済の連関 
ー歴史資料からの日射量推定と米価による解析ー

*市野 美夏1増田 耕一2三上 岳彦2高槻 泰郎3 (1.大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構・ データサイエンス共同利用基盤施設 人文学オープンデータ共同利用センター、2.東京都立大学、3.神戸大学経済経営研究所)

キーワード:史料、気候変動、市場経済、飢饉、日射量、19世紀

日本では毎日の天候記録を含んだ古文書が数多く残され、気候復元に利用されている。定性的な天気記録を気候の推定に利用する場合,日々の天気の観測は現在と歴史時代に存在するので,現在についての天気記録と,例えば,気温や日射量といった気象変数との関数関係を導き,その関係を歴史時代の天気記録に適用し,過去の気温や日射量を推定する。本研究では、天気の良し悪しと密接な関係にある気象変数として全天日射量を考え、19世紀の日記に含まれる天気記録から複数地点の全天日射量の推定を試みる。全天日射量は植物の生長への寄与が大きい気象要素の一つであり,全天日射量の変動は農作物の収量等にも大きく影響する。そこで、天保の飢饉があった1830年代を含む19世紀前半を中心に、推定した日射量の空間分布および季節進行と夏季の年々変動について考察する。さらに、大冷害で深刻であった1836年について、大阪の米価ほか穀物価格の変動との連関について議論する。

日射量の推定には、歴史時代の天気記録として歴史天候データベース、推定式を作成には、現代の気象データとして気象庁の天気概況及び全天日射量日積算値を用いる。月平均全天日射量は以下のように推定する。全天日射量の日平均値をQとし、大気上端における水平面日射量日平均値Sで規格化したものをqとする。天気の記録は天気の良し悪しを基準に3階級(k)に分類する。月別k別に平均したqSから日平均全天日射量の推定値とする。本研究では月平均した推定値と大阪米価などの経済情報との連関について、天保飢饉のあった1833年から1839年を中心に議論する。

 日射量分布とその季節進行からみた1836年の特徴は、九州南部を除き、本州全体で夏季の日射量が小さく、特に、本州中央域では、5月から9月までの長期に渡り日射量が小さい状態が続く。また、東北の日射量は平年並みかそれ以上であるが、夏季の間、梅雨前線が南下している状態が続き、いわゆる夏の晴れではなく寒かった可能性を示唆している。これは「寒かった」という記録や冷害と整合性がある。1836年は米価が通常の4倍という高騰、その高価格が1837年まで継続した。さらに小麦、大豆などコメ以外の価格も高騰している。同様に高騰した1833年、1838年が、通常の2から3倍で通常の状態への回復も早く、コメ以外の穀物価格の高騰も見られなかったことから、1836年の特異な異常天候が市場経済に影響していることが示唆される。