JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS28] 歴史学×地球惑星科学

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)

[MIS28-P11] 米ソ偵察情報を用いた計画経済期中国における森林被覆復元の試み―陝西省北部の黄土高原を例に―

★招待講演

*原 裕太1 (1.東京大学教養学部附属教養教育高度化機構)

キーワード:半乾燥気候、土地劣化、ソ連軍参謀本部作成地形図、米軍偵察衛星画像、現代史

半乾燥地である黄土高原では,農業活動に起因する土地劣化が深刻な問題で,また種々の環境悪化により貧困や格差問題が生じている。土地劣化が引き起こす諸課題に対して黄土高原では,過去 100 年以上にわたって多くの対策が講じられ,その集積として,1999 年から耕地の多くを緑化する「退耕還林」プログラムが実施されてきた。
退耕還林が始まって20年が経過した今日,黄土高原では,生態学や地理学,リモートセンシング分野によるモニタリングによって,植林実施後の生態評価が行われている。しかし,退耕還林以前の自然環境,とくに計画経済期中国の農山村地域環境は不明な点が多い。その理由は,国内の混乱等によって定量的な統計資料や研究成果が不足していることや,プロパガンダによって当時の情報には政治的脚色が加えられていること,公共利用のマルチスペクトル衛星画像が1972年のLandsat/MSS登場まで存在しないこと等が挙げられる。以上によって,黄土高原ではこの時期,農地開発が優先され自然環境が破壊されたという指摘と,前近代までの自然荒廃への対処として造林が拡大したという指摘とが併存しており,代表的指導者である毛沢東に対する自然環境面の評価にも両面がみられる。
本研究では,米ソが冷戦時代に収集した種々の偵察情報を用いて,現代史において不明なままとなっている計画経済期の森林資源分布と立地条件,それらの推移の解明を試みた。対象地として,陝北黄土高原における希少な森林地帯である,黄龍山,子午嶺の縁辺部を選択した。本研究の進展は,現在の植生モニタリング・生態系管理や,前近代の森林分布が論争となっている黄土高原の環境史研究に対しても,有益な情報を提供できると考えている。