JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS29] 泥火山×化学合成生態系

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

[MIS29-01] 泥火山・ガスチムニー・メタンハイドレート

★招待講演

*松本 良1 (1.明治大学ガスハイドレート研究所)

キーワード:日本海、音響ブランキング、異常高圧

脱水・圧密の遅れやテクトニックな水平圧力が顕著な場では、間隙流体圧が上昇し液状化してバルク密度が減少、流動化した古期堆積物は上位の新期堆積物中に貫入(泥ダイアピル)する。これが海底面まで達すると海底に凸地形が形成されこれを泥火山と言う。泥ダイアピルー泥火山は海底だけでなく、陸上でも形成され広く分布する。

海上地震探査により、世界中の浅海、深海に広範囲に、垂直円筒型の音響的ブランキング帯が分布することが分かった。これらは、当初、泥火山―泥ダイアピルの音響イメージとみなされたが、ブランキング帯の中に堆積面を示す水平の反射面を持つものがあり、これらは泥火山ではあり得ず、何か他の構造が想定された。このような特異なブランキング帯の最初期の例がナイジェリア沖の“パゴダ構造”(Emery, 1974) である。音響エエルギーが小さなブランキング帯は泥ダイアピルを作る液状化した混沌堆積物を示すとして矛盾はないが、成層ユニット中の過剰ガスや流体の存在にも対応するものであり、Emeryは、“パゴダ構造”をガスとガスハイドレートによるものではないかと考えた。その後、多くの“音響カラム・ブランキング帯”が報告され、一部は従来の考えに従い“泥火山”と類別されたが、多くについてガスとガス流体の排出通路とされ、今日では“ガスチムニー”と呼ばれることが多い。

2004年以降、ガスハイドレートを目指して集中的に展開された地球物理学探査と掘削調査により、日本海には1700以上のガスチムニーが存在すること、ガスチムニーはしばしば海底マウンドでキャップされること、マウンド上には化学合成生物群集やメタン炭酸塩クラストが発達、時にはメタンガスの湧出も伴うが明らかとなった。ガスチムニーは混沌堆積物ではなく成層したユニットからなり、周辺の堆積面がチムニー内まで追跡可能である。チムニー内では海底付近から深部までガスハイドレートやメタン炭酸塩が存在するが、これらは海底付近で形成されその後埋没したものと考えられる。マウンドから湧出するメタンは流動化した堆積物に運ばれたのではなく、ガスあるいはガス流体として成層した堆積物中を拡散、移動したものである。

ガスハイドレートの調査研究が進んだ今日でも、依然としてガスチムニーを泥火山と誤って解釈する例が後をたたない。ガスチムニーと泥火山はその形成条件も地質背景も異なり、認定の誤りはその後の議論を危うくする。地震探査により成層ユニットの存否を確認する必要がある。南海トラフと琉球トレンチには泥火山が多く、ガスチムニーは日本海に密集すると言う観察事実は、これらの海域のテクトニクス、堆積作用、続成作用の違いを反映すると考えられる。

謝辞:本報告の一部は、経済産業省のメタンハイドレート開発促進事業の一部であり、産業技術総合研究所からの再委託(2013年〜2015年)によりGHRLが実施したものである。