JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS29] 泥火山×化学合成生態系

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

[MIS29-04] 北海道の白亜紀メタン湧水の起源と湧出プロセス:湧水炭酸塩のSr、Nd同位体比とU–Pb年代を用いた制約

*宮嶋 佑典1Jakubowicz Michal2Dopieralska Jolanta3ジェンキンズ ロバート4Belka Zdzislaw2平田 岳史1 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.Isotope Laboratory, Adam Mickiewicz University, Poland、3.Poznan Science and Technology Park, Adam Mickiewicz University Foundation, Poland、4.金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)

キーワード:炭酸塩、流体循環、メタン湧水、ネオジム同位体、ストロンチウム同位体、ウラン–鉛年代測定

海底から地殻流体が湧出するメタン湧水には、炭化水素のほか海底下の水–岩石反応で放出された様々な元素が含まれる。地殻流体は化学合成生態系にエネルギー源を供給し、かつ地下深部での燃料資源の生成やテクトニクス、物質循環にも重要な役割を果たす。メタン湧水における化学合成生態系の進化は、光合成生態系の絶滅・擾乱イベントとは別に、流体の湧出を促したイベントや流体の組成に影響されてきたと考えられている(Kiel & Peckmann, 2019)。湧出する流体の起源や組成は、地球化学的な分析によって知ることができる。しかしながら、過去の地球のメタン湧水については、流体の地球化学的な特徴やその起源はよくわかっていない。また、流体の湧出時期は精確に見積もるのが困難であることが多く、地質時代の流体湧出が何によって促されていたのかはわかっていない。

 本研究では、メタン湧水炭酸塩のSr、Nd同位体組成を用いることで、北海道の白亜紀メタン湧水の起源を制約することを試みた。また、流体湧出を同地域のテクトニクスと関連付けるため、湧水炭酸塩のU–Pb年代測定によってその形成年代を決定した。白亜紀のユーラシア大陸縁辺では、蝦夷前弧海盆に分厚い海成堆積物が堆積し、それらは蝦夷層群として現在の北海道に分布している。蝦夷層群には、メタン湧水で嫌気的メタン酸化によって形成した炭酸塩岩が多数胚胎している。これら白亜紀の湧水炭酸塩岩は、化学合成生態系の進化史を解明するうえで重要な動物化石を多く産出している(e.g., Kaim et al., 2008; Kiel et al., 2008; Jenkins et al., 2018)。本研究ではレーザーアブレーション-多重検出器型誘導結合プラズマ質量分析計(LA-MC-ICP-MS)を用いて、これら湧水炭酸塩岩の局所Sr同位体比分析を行った。試料は学校の沢、大曲、安川、金尻沢、歌越沢の5地点で採取した。堆積物を含まないカルサイトセメントを対象に87Sr/86Sr比を測定した結果、カルサイトセメントは同時代の海水と同様かやや低い同位体比を示した。蝦夷層群の下位には、ジュラ紀の古海洋地殻がトラップされたものと考えられている塩基性岩が分布しており(Kawamura, 2004)、湧水炭酸塩の低いSr同位体比は塩基性基盤岩からの87Srに乏しい深部流体の寄与を示唆する。この仮説は、同炭酸塩のNd同位体比分析によって検証中である。また、LA-MC-ICP-MSとカルサイト国際標準物質を用いることで、カルサイトセメントのU–Pb年代を測定した。各地点の試料について得られた年代値の誤差は大きいが、金尻沢と歌越沢の年代値はアルビアン、学校の沢、大曲、安川の年代値はカンパニアンの範囲内で重複した。この結果は、少なくとも2回の流体湧出イベントを示唆しており、それぞれアルビアンの付加体の隆起または沈降イベント、およびカンパニアンの前弧海盆の変形イベントに対比できる(Ueda, 2005; Tamaki et al., 2009)。