[MIS29-06] 鯨骨群集成立期における骨周辺-骨内の酸素濃度
キーワード:鯨骨群集、化学合成
地球上最大の動物である鯨類の遺骸は,その分解過程において,鯨骨群集とよばれる生物群集を養う(Smith et al., 2015).鯨骨群集生物は遺骸周辺から骨内部までの空間で棲み分けが起きており(Smith & Baco, 2003; Smith et al., 2015),この棲み分けは,骨内外の有機物の分解に伴って減少する酸素などに起因していると考えられている.しかし,鯨類遺骸周辺における酸素濃度分布の実測例は極めて少ない.そこで,本研究では鯨骨群集の骨周辺から骨内に至るまでの海水の溶存酸素濃度の測定を行った.(1)天然海底に置いた遺骸を囲う枠を設置しそこにチューブを固定して採水を行う方法(非かく乱採水法)と、(2)骨を切断し酸素センサーチップを張り付けたガラス水槽に接着し切断面の酸素濃度を測定する方法(2D O2-センサーフィルム法)の二つの方法で酸素濃度測定行った.測定の結果から,骨に付着していた軟組織の分解によって鯨骨内部から遺骸の周辺<1 ㎝までが貧酸素環境になるが,軟組織の消失とともに,骨外の貧酸素領域は骨表面 2 mm まで縮小すること,骨内部は無酸素状態であることが明らかになった.このとき,イオウ酸化細菌やツリガネムシ類は骨極表面の貧酸素領域に生息し,ノリコイソメ類(環形動物)は基本的には骨内の無酸素領域に生息しつつ酸素獲得のためか骨表面への行き来をしている.