JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS29] 泥火山×化学合成生態系

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、ジェンキンズ ロバート(金沢大学理工研究域地球社会基盤学系)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

[MIS29-P04] 深海化学合成生物群集におけるプランクトン幼生の潜在的分散能力と集団間の連結性:コシオリエビ類の例

*渡部 裕美1御手洗 哲司2チェン チョン1山本 啓之1 (1.海洋研究開発機構、2.沖縄科学技術大学院大学)

キーワード:化学合成生物群集、プランクトン幼生、系統地理

海洋生態系の変動を反映する生物の分布は,海底に生きる生物であっても生活史のうちのプランクトン幼生期の動態に大きく左右される.プランクトン幼生期に海流によって輸送され分布範囲を広げたり,あるいは既存の集団を維持していると考えられている.この様子を間接的に観察するために,生物の種内集団間の遺伝的連結性や系統地理学的解析,あるいは海洋物理シミュレーションが実施されている.本発表では,深海底の特徴的な環境(化学合成生物群集)のみに生息するコシオリエビ類を対象に,海洋物理モデルに基づくプランクトン幼生の潜在的分散範囲と系統地理を比較し,プランクトン幼生の動態について考察する.

 ゴエモンコシオリエビはインド-西太平洋域における深海熱水噴出域,メタン湧水域に広く分布し,これらの海域では代表的な種となっていることが多い.腹部に外部共生細菌を有しており,特定の環境のみに生息すると予想されている.近年,メタンを含まない熱水噴出域から着底直後のゴエモンコシオリエビが採集されたが,一方で多数の調査が実施され,メタンが豊富な熱水が多く観察される沖縄トラフと生物相の類似がみられる相模湾初島沖のメタン湧水域でこれまでゴエモンコシオリエビの分布は確認されていない.これらの海域における海洋物理モデルに基づくプランクトン幼生の潜在的分散範囲とゴエモンコシオリエビの分布および系統地理的解析を比較したところ,両者は概ね一致するものの,細かい点で矛盾も確認された.他の深海化学合成生物との分布パターンも異なっていた.今後の海底資源開発,あるいは海洋保護区の設定にむけて,特定の環境における代表的な種に関して分布・分散のメカニズムが解明されていく必要がある.