[MIS30-12] 人新世の微化石指標:膠着質底生有孔虫を用いたマイクロプラスチック汚染の実態把握
キーワード:マイクロプラスチック、膠着底生有孔虫、微化石指標、人新世
海洋プラスチック汚染は、沿岸域だけではなく人間活動から離れた超深海のマリアナ海溝にまで広範囲に渡ることが明らかになってきた。海洋など環境中に流出したプラスチックの挙動を解明することは、地球規模の喫緊の課題である。海洋へ排出されたプラスチックは、波浪や紫外線などの影響によりマイクロプラスチック(MP)化し、海洋表層や海底堆積物に集積していくと考えられるが、深海への輸送過程など不明な点は多い。また、海底堆積物中のMP粒子を試料採取年代や堆積年代ごとに定量解析することで、海洋環境中へのMP汚染履歴などを復元できることが期待されるが、MPは試料採取時や分析時に容易に周囲から混入し、特にアーカイブ試料を用いる際には採取時の汚染の可能性を排除できない点が問題である。
本研究では,膠着質底生有孔虫によるMPを含む粒子の殻への取り込みに着目した。膠着質底生有孔虫は、生息環境周辺に存在する砂質粒子を殻の構築に利用する。このため、海底に堆積したMPを殻の材料の一部として偶然あるいは選択的に取り込むと考えられる。一方、遺骸個体ではMPが取り込まれることはないため、実験環境などからのMP汚染と明確に区別できる。この現象を利用することで、試料採取時や分析時の汚染の可能性を排除した新たな環境指標のモニタリングツールとして利用することができ、MP汚染の実態を空間的に評価できる可能性がある。さらに、MPを殻に取り込んだ膠着質有孔虫は化石として堆積物中に保存され、MPの時空間変動を明らかにするための良い材料となり得る。
有孔虫には、主に炭酸カルシウムを殻の主成分とする石灰質有孔虫と、周囲の砂質粒子を膠着させて殻を構築する膠着質有孔虫が存在する。有孔虫は浅海から超深海までの様々な海域に生息し環境に応じた分布を示すため、有孔虫種の出現や群集組成、炭酸カルシウム殻の化学組成などが、過去から現在の環境指標として広く利用されている。また、化石として地層に長期間に渡って保存されるため、種多様性変動や環境変遷を明らかにすることができる。膠着質有孔虫殻内のMP粒子の検出技術を確立し、膠着質有孔虫による粒子選択性や固定能力を示すことで、近過去のMP汚染指標としての有用性が期待できる。
本研究では、膠着質底生有孔虫殻へのMP粒子の取り込みの有無を明らかにするため,Cyclammina cancellataを対象にした分析を試みた。分析には、相模湾初島沖の水深約800 mから採取した堆積物と、そこに生息するC. cancellataを用い、堆積物内および殻内MPをナイルレッド染色し,蛍光実体顕微鏡よる観察を行うとともに、顕微FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いてMPの種類判別を行った。また、走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像を用いて殻内の低密度粒子を検出し、ナイルレッド染色されたMP粒子との位置関係を確認した。さらに個体の重量を計測し、殻に取り込まれるMP粒子の存在量を推定した。
Cyclammina cancellataは,ナイルレッドで染色された粒子を殻の中に複数個を保持していた。しかし、殻を構成する砂質粒子に比べ数は少なく、本種においては選択的に取り込んでいるとは言えない。顕微FTIR分析の結果、乾燥重量約0.9 mgの1個体に約20 µmのポリエチレン粒子を1粒子確認した。周囲の堆積物中には、<25〜200 µmのMP粒子が1gあたり0.84〜8個存在することから、検出された粒子の大きさと調和的であり、有孔虫によるMP粒子の固着化の効果もあると言える。つまり、海底に沈降したMPは、膠着質有孔虫にも取り込まれ、MPの行方の一つとしての役割を担う可能性が高い。微小なMP単体では、堆積物の再懸濁により海水中に容易に舞い上がるが、膠着質有孔虫の殻に取り込まれることにより、たとえ堆積物が再懸濁してもMPを保持している有孔虫殻は速やかに沈降する。膠着質有孔虫によるMPの取り込みが、MPを海水中から除去する役割の一端を担っている可能性もある。
殻を構築するための砂質粒子の種類、取り込み量や取り込む粒子の粒径は、膠着質有孔虫の大きさ(成長段階の違い)や種ごとに異なる。このため、種ごと個体サイズごとにMP粒子の存在を確認する必要があるが、堆積物中のMPの変動に呼応するように、殻内にもMPが取り込まれるため、既往研究で拾い出され、近過去の環境変遷を解析された試料や柱状コアのアーカイブ試料を再解析することで、MPの時空間変動を追跡できる可能性がある。
本研究では,膠着質底生有孔虫によるMPを含む粒子の殻への取り込みに着目した。膠着質底生有孔虫は、生息環境周辺に存在する砂質粒子を殻の構築に利用する。このため、海底に堆積したMPを殻の材料の一部として偶然あるいは選択的に取り込むと考えられる。一方、遺骸個体ではMPが取り込まれることはないため、実験環境などからのMP汚染と明確に区別できる。この現象を利用することで、試料採取時や分析時の汚染の可能性を排除した新たな環境指標のモニタリングツールとして利用することができ、MP汚染の実態を空間的に評価できる可能性がある。さらに、MPを殻に取り込んだ膠着質有孔虫は化石として堆積物中に保存され、MPの時空間変動を明らかにするための良い材料となり得る。
有孔虫には、主に炭酸カルシウムを殻の主成分とする石灰質有孔虫と、周囲の砂質粒子を膠着させて殻を構築する膠着質有孔虫が存在する。有孔虫は浅海から超深海までの様々な海域に生息し環境に応じた分布を示すため、有孔虫種の出現や群集組成、炭酸カルシウム殻の化学組成などが、過去から現在の環境指標として広く利用されている。また、化石として地層に長期間に渡って保存されるため、種多様性変動や環境変遷を明らかにすることができる。膠着質有孔虫殻内のMP粒子の検出技術を確立し、膠着質有孔虫による粒子選択性や固定能力を示すことで、近過去のMP汚染指標としての有用性が期待できる。
本研究では、膠着質底生有孔虫殻へのMP粒子の取り込みの有無を明らかにするため,Cyclammina cancellataを対象にした分析を試みた。分析には、相模湾初島沖の水深約800 mから採取した堆積物と、そこに生息するC. cancellataを用い、堆積物内および殻内MPをナイルレッド染色し,蛍光実体顕微鏡よる観察を行うとともに、顕微FTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いてMPの種類判別を行った。また、走査型電子顕微鏡(SEM)の反射電子像を用いて殻内の低密度粒子を検出し、ナイルレッド染色されたMP粒子との位置関係を確認した。さらに個体の重量を計測し、殻に取り込まれるMP粒子の存在量を推定した。
Cyclammina cancellataは,ナイルレッドで染色された粒子を殻の中に複数個を保持していた。しかし、殻を構成する砂質粒子に比べ数は少なく、本種においては選択的に取り込んでいるとは言えない。顕微FTIR分析の結果、乾燥重量約0.9 mgの1個体に約20 µmのポリエチレン粒子を1粒子確認した。周囲の堆積物中には、<25〜200 µmのMP粒子が1gあたり0.84〜8個存在することから、検出された粒子の大きさと調和的であり、有孔虫によるMP粒子の固着化の効果もあると言える。つまり、海底に沈降したMPは、膠着質有孔虫にも取り込まれ、MPの行方の一つとしての役割を担う可能性が高い。微小なMP単体では、堆積物の再懸濁により海水中に容易に舞い上がるが、膠着質有孔虫の殻に取り込まれることにより、たとえ堆積物が再懸濁してもMPを保持している有孔虫殻は速やかに沈降する。膠着質有孔虫によるMPの取り込みが、MPを海水中から除去する役割の一端を担っている可能性もある。
殻を構築するための砂質粒子の種類、取り込み量や取り込む粒子の粒径は、膠着質有孔虫の大きさ(成長段階の違い)や種ごとに異なる。このため、種ごと個体サイズごとにMP粒子の存在を確認する必要があるが、堆積物中のMPの変動に呼応するように、殻内にもMPが取り込まれるため、既往研究で拾い出され、近過去の環境変遷を解析された試料や柱状コアのアーカイブ試料を再解析することで、MPの時空間変動を追跡できる可能性がある。