JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS31] 惑星火山学

コンビーナ:野口 里奈(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、諸田 智克(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[MIS31-06] 月で火山探査を実現するための戦略

★招待講演

*佐伯 和人1 (1.大阪大学大学院理学研究科)

キーワード:月、火山、探査

月には科学的に魅力的な火山地形や特殊な火成活動によってできた地形が多数存在する。現在、多くの月探査計画が企画されているが、それらの地域をめざす探査計画はほとんどない。なぜ火山探査はあまり企画されないのか、どうすれば火山探査が実現できるのかを考察したい。

 かつてSELENE-2という月着陸探査計画があり、私は着陸地点検討会の主査を務めさせていただいた。SELENE-2は2010年代中ごろの打ち上げをめざしていた。SELENE-2計画は残念ながらキャンセルとなったが、着陸地点検討会には、21の研究グループから70カ所以上の着陸地点に関する35の科学提案が集まった。それらの類似性から検討会は10の着陸候補地に絞った。(1)チコクレータ、(2)アポロ14号着陸地点、(3)コペルニクスクレータ、(4)縦穴、(5)湿りの海地域、(6)イナ、(7)ズッキウスクレータ、(8)ハンスティーンアルファ、(9)マリウスヒルズ、(10)ライナーガンマーである。このうち、(4)(6)(8)(9)は火山地形である。しかし、最終候補には残ることは難しかった。その理由は、1回の探査で十分な成果を得ることが難しいと考えられたからである。月探査計画のためには、1カ所でできる探査であることや、複雑な観測装置を使わなくてもできる探査であることが重要なのだ。これは地球の地質学者にはあまりなじまない考え方かもしれない。

 似たような探査を私はカメルーンで体験した。1986年、マグマ性の二酸化炭素が突然湖水から解放されてニオス湖で湖水爆発が起きた。この災害で湖の周りで約1800名の犠牲者が出た(Klinget al.1987; Sigurdsson et al.1987)。湖水爆発の前兆をとらえ火山湖のリスクを低減するために、私のグループは溶存二酸化炭素の量をモニタする装置を開発することを試みた。しかし、複雑な機械は動物等によって壊されることがあり、また壊れた装置を現地で修理することは困難である。そこで、単純な音速測定装置で湖水の二酸化炭素濃度を測定する方法を開発した(Saiki et al.,2017)。単純な装置で結果を出すことは宇宙探査でも必要な考え方である。

また別の貴重な経験を伊豆大島で得た。私は2009年に伊豆大島無人観測ロボットシンポジウムを始めた。このシンポジウムは火山学や宇宙工学といった異なる分野の無人観測ロボット研究者を伊豆大島に集め、実証試験の機会を提供し、互いに情報交換し、観測ロボット開発を加速するとともに運用の枠組みを確立しようというものである。この実証試験は2017年に終了するまで毎年たくさんの参加者を得た。結果、空を飛ぶドローンは火山観測に頻繁に使われるようになったた、地上を走るロボットに関しては、なかなか成果があがらなかった。それは、火山学者はロボットが行けないような危険な場所にもどんどん行ってしまうからである。そんな状況でロボットに観測をまかせるアイデアを出すのは難しいのではないだろうか。
 月での火山探査計画が実現するためは以下の3つのことが必要である。「1回かつ狭い範囲の調査でできる観測計画を立てること」、「簡単な観測装置で実現できる探査を企画すること」、「地球の火山でも無人観測機による探査を実践すること」である。