JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS32] ガスハイドレートと地球環境・資源科学

コンビーナ:戸丸 仁(千葉大学理学部地球科学科)、八久保 晶弘(北見工業大学)、後藤 秀作(産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門)、谷 篤史(神戸大学 大学院人間発達環境学研究科 人間環境学専攻)

[MIS32-P08] 千葉石におけるラジカル種を介した水素原子移動現象の観察

*横山 優花1磯谷 舟佑1楠木 健太1西戸 裕嗣2谷 篤史1 (1.神戸大学 大学院人間発達環境学研究科、2.岡山理科大学 生物地球学部)

キーワード:シリカクラスレート、千葉石、水素原子移動現象、ラジカル種、電子スピン共鳴

2011年、千葉県で新しい鉱物「千葉石」を発見されたという論文が発表された(Momma et al., 2011)。千葉石はシリカクラスレートと呼ばれており、ホスト分子のケイ酸がカゴ状の構造を形成し、ゲスト分子の低分子有機化合物がそのカゴの中に取り込まれ、結晶となっている。シリカクラスレートは、水分子がカゴ状構造を形成してできるクラスレートハイドレートと同じ結晶構造となることが知られている。千葉石はクラスレートハイドレートのⅡ型に相当する構造をもち、ゲスト分子としてメタン、エタン、プロパン、イソブタンをカゴの中に含むことができる。よって、千葉石にγ線を照射するとメチルラジカル、エチルラジカル、n-プロピルラジカル、iso-プロピルラジカル、iso-ブチルラジカル、tert-ブチルラジカルが千葉石中に生成されると考えられる。予察的な実験としてγ線照射した千葉石のESR(電子スピン共鳴)観測を低温(110 K)と常温(290 K)で行ったところ、想定されたラジカル種のうちメチルラジカルとtert-ブチルラジカルが主に観察された。また、低温と常温で確認された有機ラジカルの種類や量に違いがあったことから、千葉石におけるラジカル種を介した水素原子移動現象が示唆された。ここでいう水素原子移動現象とは、放射線照射によって生成されたラジカル種とゲスト分子の間で水素原子が授受される現象である。同様の現象は水分子をホストとするクラスレートハイドレートでみられ、一次反応で水素原子が授受されており、活性化エネルギーが求められている(e.g. Ohgaki et al., 2008)。シリカクラスレートにおける水素原子移動現象の活性化エネルギーを推定することができれば、クラスレートハイドレートにおける活性化エネルギーと比較することでホスト分子によるクラスレート構造の違いを考察できると考えている。そこで本研究では、千葉石において水素原子移動現象がおこっているかを確かめるため、温度上昇に伴う千葉石のESRスペクトルの変化を計測し、千葉石中のラジカル量の変動を詳細に調べた。
千葉石を乳鉢でやさしく砕き、1 mm程度の粒試料を準備した。これを液体窒素(77 K)に浸してγ線を照射し、120 K, 140 K, 170 K, 200 K, 230 K, 260 K, 290 Kの各温度において15分間の等時アニーリング実験を行った。アニーリング毎に120 KでESR観測したところ、ラジカル種により増加・減少する温度域が大きく異なっていた。また、260 K付近の温度域では増加傾向がみられるラジカルが存在する一方で、減少傾向がみられるラジカルも存在することがわかった。このことから、千葉石中で水素原子移動現象が起こっている可能性は高いと考えられる。