JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT51] 地球化学の最前線

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)

[MTT51-05] Be抽出法の改良による低バックグラウンド10Be表面照射年代測定

*宮入 陽介1,2横山 祐典2,3白濱 吉起1 (1.産業技術総合研究所、2.東京大学大気海洋研究所、3.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:加速器質量分析、10Be、表面照射年代

地表面に存在する岩石内で生成された宇宙線生成核種の蓄積量から岩石の露出年代を算出する表面照射年代測定法は、岩石が地表面に露出した年代を直接年代測定できる唯一の手法として非常に有用な手法である。表面照射年代測定法に用いられる宇宙線生成核種にはいくつかの種類がある。例えば10Be、26Al、36Cl、14Cなどである。特に、主に岩石中の石英粒子の酸素原子の核破砕反応で生成される10Beを用いた表面照射年代測定は、その生成経路がシンプルであること、10Beの半減期が約150万年と短く、第四紀の環境変遷の復元に適した長さであるため有用である。
 上記のように表面照射年代測定法には多くの利点が存在するものの、その分析は容易ではない。それは主に宇宙線生成核種の存在量が極端に少ないことに起因する。地表面での宇宙線生成核種の生成量は、地表面に到達する宇宙線フラックスに比例する。宇宙線は大気や地球磁場によって遮蔽されるため、地球磁場の遮蔽効果の高い低中緯度域及び大気の遮蔽効果の高い低標高の地域では宇宙線生成核種の生成率は低くなる。そのため、本手法は生成率の高い南極のような極域や、中低位度域では高地での応用が盛んである。しかしながら、本手法は岩石が地表面に露出した年代を直接年代測定できるという優位性もあり、低中緯度域や海岸線付近の低標高地域への適用も求められている。
 岩石中で生成される10Be濃度は微量である。そのごく微量な10Beを測定するために加速器質量分析法(AMS法)を用いる。加速器質量分析法により同重体10Bと10Beを弁別し宇宙線により生成した10Beを定量するのであるが、生成量が少なく極低濃度の10Be定量を行うためには試料中の10Bの濃度を極限まで少なくし、10Bのテーリングの影響を排除する必要がある。
 岩石試料からのBeを抽出し加速器質量分析用分析ターゲットの作成するためには、従来、陽イオン交換樹脂を用いたイオンクロマトグラフィー法が用いられてきた。しかしながら、同手法には、試料中に含まれる不純物イオンの含有量によって目的とするBeの抽出位置がずれてくる場合や、イオン交換カラム実験後に残った不純物イオンの影響でその後のBe純化プロセスに悪影響を及ぼす場合があった。
 そこで本研究では、 DIPEX(R)抽出剤を用いたキレート樹脂固相抽出法をBeの分離精製プロセスに加えることにより、高純度のBeを得ることを可能とした。本抽出プロセスを加えることにより、加速器質量分析でのB残存量が90%以上減少し、極低濃度10Be分析が可能となった。このことは、日本をはじめとした低中緯度地域での低標高地域への表面照射年代測定法の適用が容易になることが期待される。本発表ではその応用事例等を含めて紹介する。