JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT51] 地球化学の最前線

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)

[MTT51-12] High resolution carbon reservoir effect fluctuations derived from surface water dissolved inorganic radiocarbon of Fuji Five Lakes

*太田 耕輔1,2横山 祐典1,2宮入 陽介2山本 真也3 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻、2.東京大学大気海洋研究所、3.山梨県富士山科学研究所)

キーワード:放射性炭素年代測定、炭素リザーバー効果、富士五湖

陸域の古環境復元研究では高時間解像度化が求められており,湖の年縞堆積物や石筍が利用されてきた.しかし,年縞堆積物や石筍の様な長期間の形成期間を有する優れた地質試料を利用できる地域は限られている.また,広域に適用可能な年代測定法としては放射性炭素年代測定法が有用であるが,炭素リザーバー効果を考慮しなければならない.炭素リザーバー効果とは,大気から炭素が固定,運搬される過程において堆積された生物遺骸や母岩由来の14Cに乏しい炭素源との交換により,年代分析対象となる水や堆積物が見かけ上古い14C年代を示す現象である.海洋試料のリザーバー効果の見積りは以前より広く行われているが,最近の研究では,季節変動の可能性が指摘されるなど,いまだに詳細な検討が続けられている.複雑な炭素移動過程や測定技術の問題から,陸域のリザーバー効果の研究例は乏しく,季節変動について研究された例はない.しかしながら上記のように湖沼堆積物は古環境解析研究のための重要な試料であり,そのリザーバー効果を高精度に見積ることは重要である.
 富士五湖では本栖湖・精進湖・西湖において常時流入及び流出河川はなく,湖水は降水・地下水の流入によって規定されるため,水の移動経路が単純であり,水圏の炭素移動過程の推定に適している.降水,地下水,湖水の放射性炭素濃度(Δ14C)を測定することで,地下水が湖水のリザーバー効果に与える影響の解明が可能となる.
 本研究では,富士五湖を対象に湖水のΔ14Cを1ヶ月に一度の高頻度で測定を行い,地下水のΔ14Cと比較した.さらに,地下水の涵養標高および湖の観測データと地下水,湖水Δ14Cのボックスモデルから水収支の計算を行い.富士五湖のリザーバー効果の変動メカニズムを検討した.
 その結果,河口湖の8月の湖水が最も低いΔ14Cをもち,本栖湖の1月の湖水が最も高いΔ14Cを示し,どちらも夏から冬にかけて上昇することが明らかになった.西湖,山中湖は明確な季節変動は見られなかった.水収支計算結果から,地下水の流入量が冬季にピークをもち、融雪による地下水圧の上昇が原因であることが示唆される.
 湖水と堆積物のリザーバー効果の関係について,本栖湖,河口湖において夏季の湖水Δ14Cと表層堆積物のΔ14Cが一致した.両湖における堆積物のΔ14Cは,夏季の生物生産の拡大による湖水14Cの固定によって規定されることが示唆され,今後湖沼堆積物のリザーバー効果の推定には夏季の湖水Δ14Cが適用できる可能性が示された.