JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT51] 地球化学の最前線

コンビーナ:橘 省吾(東京大学大学院理学系研究科宇宙惑星科学機構)、横山 祐典(東京大学 大気海洋研究所 高解像度環境解析研究センター)、鍵 裕之(東京大学大学院理学系研究科附属地殻化学実験施設)

[MTT51-P01] マルチターン飛行時間型質量分析計を用いたヘリウム同位体比の測定

*服部 佑樹1秋山 良秀1角野 浩史1 (1.東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻)

キーワード:質量分析、同位体比、ヘリウム同位体、希ガス、火山ガス

火山ガスのヘリウム同位体比 (3He/4He比) には火山活動の監視につながる大きな可能性がある。3He/4He比は,始原的ヘリウム (大気と比べて3Heに相対的に富む) と放射壊変起源ヘリウム (主に4He) の混合比率によって,大気・地殻・マントルといったリザーバーごとに異なる値を示す。火山ガスの場合,3He/4He比はマグマ (最高で1.1 × 10−5程度) と地殻 (1 × 10−7未満) の間の値をもつ。マグマの活動が活発化するとマグマ起源ヘリウムの寄与が大きくなると予想され,火山ガスの3He/4He比が上昇する可能性がある。このような噴火に先行する3He/4He比の上昇は,カナリア諸島のエル・イエロ島[1],イタリアのエトナ火山[2],日本の御嶽山[3]で報告されている。

火山活動の監視のためには火山ガスの連続的な分析が必要であるが,現在ヘリウム同位体の分析には大型の電磁石を必要とする磁場型質量分析計が用いられているため,それは困難である。3He/4He比を測定するには,3He+をHD+と区別するための質量分解能と微量の3Heを検出するための感度が必要となる。さらに,火山ガス中のヘリウム濃度は一般的に非常に低いため,ヘリウムを他のガス種から精製・分離するために高真空ラインも必要である。これらの理由から,ヘリウム同位体分析ができる研究室自体が限られ,火山周辺での3He/4He比のオンサイト・リアルタイム測定はほとんど不可能である。

我々は,火山ガスの3He/4He比をオンサイト・リアルタイムで測定するために,“infiTOF” (MSI TOKYO社) を用いた新しい希ガス分析の手法を開発している。infiTOFは,マルチターン飛行時間型質量分析計MULTUM-S II[4, 5]から派生した,小型で可搬型の飛行時間型 (TOF) 質量分析計である。infiTOFによって得られる高い質量分解能は,3He+および20Ne+をそれぞれの妨害イオンであるHD+および40Ar++と区別することができる。ただし,通常のinfiTOFの感度は火山ガス中の希ガスを分析できるほど高くはなかった。というのも,導入された希ガス分子のほとんどが電子イオン源によってイオン化される前に直結された真空ポンプにより排気されてしまうためである。そこで,静作動方式 (質量分析計を真空ポンプから切り離し,気体分子を排気せずに装置内に滞留させる方式) を実現するため,質量分析計とポンプの間にバルブを設置した。また,作動中の質量分析計内の真空度を十分高く保つために,希ガス以外の活性ガスを除去するゲッターポンプも取り付けた。加えて,微弱な3Heの信号を検出するために,信号処理にイオンカウンティング法を導入した。その結果,ヘリウム標準ガス (HESJ[6]) 中の3Heが有意な数だけ観測された。磁場型質量分析計と同程度の感度はまだ得られていないが,測定時間を長くとれば3Heのカウント数が蓄積され,火山ガス試料の3He/4He比の測定が十分な精度で可能になると考えられる。

[1] Padrón et. al., Geology (2013). [2] Paonita et. al., Geology (2016). [3] Sano et. al., Sci. Rep. (2014). [4] Toyoda et. al., J. Mass Spectrom. (2003). [5] Shimma et. al., Anal. Chem. (2010). [6] Matsuda et. al., Geochem. J. (2002).