[MZZ56-04] 1970年代の地球科学におけるグローカル・アプローチ 〜故島津康男教授のオーラルヒストリーから〜
キーワード:地球科学、島津康男、グローカル
近年、地域的課題の解決に取り組む地域系学部の設立が、地方大学を中心に広がっている。そのカリキュラムの核になっている学問分野は社会学、行政学、建築や土木の都市計画などであり、地球科学の存在感は大きくない。しかし、地球科学は資源開発、防災、環境など、本来は社会的課題や地域的課題と密接に関わっている。この分野は、1970年代以降、それまでの個別記載的アプローチを否定し、グローバルな視点を強調する動きが強まり、その反動でローカルな問題を軽視しすぎたのではないだろうか。
学術的にはグローバルな視点を持ち、目の前のローカルな問題の解決に力を注ぐ、Think global, act localという標語は広く知られているが、1970年代に地球科学でその実践を行った例は少ない。この用語は1980年代以降Glocalというキャッチフレーズとなり、世界に進出するビジネスモデルとしても広く普及したが、地球科学の世界ではあまり注目されることはなかった。ここでは名古屋大学地球科学教室で先進的な取り組みを行った故島津康男教授のオーラルヒストリーにもとづき、極めて先進的なGlocal 研究の意義を考察する。
日本の環境科学は公害対策からスタートした。そこでは目の前で発生している問題を迅速に解決しなければならず、次々と発生する問題に対処療法的な対応がとられた。島津はそのような環境の研究にはあまり興味がないと著書『国土科学』(1974年)の中で述べている。一方で、人間活動を事前に評価して地域や地球の環境を設計していく環境アセスメントはその有効性を高く評価し積極的に関与する。独自の環境アセスメント手法として、「環境の現場監督」と名付けた地域住み込み型の方法も提案した。その試みはNHKブックス『環境アセスメント』(1977年)として広く世の中に紹介された。この本は『新版環境アセスメント」(1987年)、『市民からの環境アセスメント』(1997年)と改訂され、長い期間、多くの読者に読まれ続けた。
島津の研究室では科学研究として取り組む価値があるか否かが最も重要な判断基準になっており、それに加えて社会的に重要な課題であるかが問われてはいる。その場しのぎの解決策を模索するのではなく、ことの本質を突きとめて、根本的な解決をめざしているのが特徴である。また、島津の研究者としての特徴の1つは、利害関係から自由な立場を貫き通したことにある。
さらに、この新しい分野を学んだ学生の進路指針も示していることは、注目に値する。現在日本中の大学で起きている動きを40年あまり先取りし、見通しのよい方向性を学生らに示している。
「私の希望は、故郷に帰って地方公務員になってもらうことである。しかも、一般職の公務員試験を受けろという。理学部出身者だと技術職の試験を受けるのが普通だが、それではたとえ合格しても、公害監視や水質分析などの仕事にとどまり、『どうするか』の計画策定に当たれるチャンスは少ない。行政特にそのプランニングに国土学を行かすには、一般職でしかも上位で合格した方がよい。自然のしくみと人の心の両方が理解できる行政をしてもらいたいのである。」(『国土学への道』199ページ、1983年)
学術的にはグローバルな視点を持ち、目の前のローカルな問題の解決に力を注ぐ、Think global, act localという標語は広く知られているが、1970年代に地球科学でその実践を行った例は少ない。この用語は1980年代以降Glocalというキャッチフレーズとなり、世界に進出するビジネスモデルとしても広く普及したが、地球科学の世界ではあまり注目されることはなかった。ここでは名古屋大学地球科学教室で先進的な取り組みを行った故島津康男教授のオーラルヒストリーにもとづき、極めて先進的なGlocal 研究の意義を考察する。
日本の環境科学は公害対策からスタートした。そこでは目の前で発生している問題を迅速に解決しなければならず、次々と発生する問題に対処療法的な対応がとられた。島津はそのような環境の研究にはあまり興味がないと著書『国土科学』(1974年)の中で述べている。一方で、人間活動を事前に評価して地域や地球の環境を設計していく環境アセスメントはその有効性を高く評価し積極的に関与する。独自の環境アセスメント手法として、「環境の現場監督」と名付けた地域住み込み型の方法も提案した。その試みはNHKブックス『環境アセスメント』(1977年)として広く世の中に紹介された。この本は『新版環境アセスメント」(1987年)、『市民からの環境アセスメント』(1997年)と改訂され、長い期間、多くの読者に読まれ続けた。
島津の研究室では科学研究として取り組む価値があるか否かが最も重要な判断基準になっており、それに加えて社会的に重要な課題であるかが問われてはいる。その場しのぎの解決策を模索するのではなく、ことの本質を突きとめて、根本的な解決をめざしているのが特徴である。また、島津の研究者としての特徴の1つは、利害関係から自由な立場を貫き通したことにある。
さらに、この新しい分野を学んだ学生の進路指針も示していることは、注目に値する。現在日本中の大学で起きている動きを40年あまり先取りし、見通しのよい方向性を学生らに示している。
「私の希望は、故郷に帰って地方公務員になってもらうことである。しかも、一般職の公務員試験を受けろという。理学部出身者だと技術職の試験を受けるのが普通だが、それではたとえ合格しても、公害監視や水質分析などの仕事にとどまり、『どうするか』の計画策定に当たれるチャンスは少ない。行政特にそのプランニングに国土学を行かすには、一般職でしかも上位で合格した方がよい。自然のしくみと人の心の両方が理解できる行政をしてもらいたいのである。」(『国土学への道』199ページ、1983年)