JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-01] 学校教育で使用されている地球惑星科学教材

2020年7月12日(日) 09:00 〜 10:30 Ch.2

コンビーナ:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)、川手 新一(武蔵高等学校)、山本 政一郎(福井県立奥越特別支援学校)、根本 泰雄(立命館大学理工学部)、座長:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)

09:15 〜 09:30

[O01-02] 地球惑星科学教材に地震はどのように登場しているか

★招待講演

*加納 靖之1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:地震、被害地震、地震活動、歴史地震、災害軽減

本講演では,高校の地学・地理に関係する教科書の地震学に関わる記述について検討する.

山本・尾方(2018)では,高等学校の地理教育・地学教育における教科書用語について検討している.「地震関係の用語」「プレートテクトニクス関係の用語」「造山運動・造山帯関係の用語」などが具体的に検討されているが,これらは地震学とも関わりが深く,随時検討していく必要がある.研究の進展あるいは普及にともない最適な用語,あるいは説明が変遷していく可能性もある.例えば市民向けの講演会などの場でどのような用語や説明を用いるべきかなど,教科書だけに留まらない課題である.一例として,主として地理の教科書には「東海地震」を説明しているものがある.1970年代に「東海地震」説が提唱され,防災行政へも大きな影響をもち,また「割れ残り」という説明の分かりやすさもあって教科書の題材となってきたと考えられる.いっぽうで,南海トラフで発生する巨大地震への理解や対策の進展もあり,「東海地震」のみを取りあげるのは時代遅れの感がある.とはいえ,科学研究の進展や科学における予測への取り組み,あるいは,その社会との関わりの事例としての価値はあるのではないか.

地学・地理の教科書に共通するのは,2011年東北地方太平洋沖地震や1995年兵庫県南部地震などを導入あるいはコラムとして説明する傾向である.学習に対する動機づけや将来発生する災害の軽減の観点からは重要である.いっぽうで,被害が発生するような大地震に過度に注目することで,災害の発生しないような中小の地震も多数発生していることが背景化してしまっているかもしれない.個数でいえばはるかに多い中小の地震も含めた地震活動について正確に理解することは,地震発生予測の真偽や信頼性について考えることにつながるだろう.また,中小の地震に着目して,最先端の観測・解析技術に親しむこともできると考える.
上記の地震の例に見られるように,災害を引き起こすような自然現象の説明において災害が導入とされることが多い.また,発展的な学習や探究活動の課題として,地震などに対する防災・減災が挙げられている教科書が複数ある.災害研究においては,自然災害は誘因(地震などの外力)が素因(地形や地盤,人口や居住状況など)に働きかけて発生すると整理されている.災害を分かりやすい例あるいは動機づけとして記述するだけでなく,自然災害の発生の仕組みにまで踏み込んで教科書の記述や課題設定を整理すべきではないか.例えば,歴史地震をはじめとする過去の災害の発生履歴や,履歴や種々の理論にもとづく将来の発生予測,ハザードマップ(確率的地震動予測地図など)の背景となる考え方や,地震動・津波シミュレーションを題材として,地学・地理における学習を深めることができるのではないか.緊急地震速報をP波,S波と関連づけて説明しているのは好例である.前記の地震規模とも関連するが,M6程度の地震でも,地震に対して脆弱な地域や社会では被害が出ることも自然現象と災害について考える際のヒントになるのではないか.さらに,地学・地理だけでなく,他教科での災害教育との交流あるいは仕分けの可能性もあるのではないか.特に災害発生後の対処や社会としての備えについては,地球科学の範疇を越える部分も多い.