JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[O-03] 地球・惑星科学トップセミナー

2020年7月12日(日) 16:00 〜 17:30 Ch.1

コンビーナ:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)、道林 克禎(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 岩石鉱物学研究室)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、関根 康人(東京工業大学地球生命研究所)、座長:原 辰彦(建築研究所国際地震工学センター)

16:35 〜 17:10

[O03-02] 顕在化する地球温暖化と近年の異常気象

★招待講演

*中村 尚1 (1.東京大学先端科学技術研究センター)

キーワード:異常気象、地球温暖化、自然変動

近年,地球温暖化が顕在化しており,その異常気象発現への影響が懸念されている.2019年の全球年平均地表気温は2016年に次いで第2位の高温であり,2010年代後半の5年平均値,2010年代の10年平均値は共に過去最高を更新した.また,2019年の我が国の年平均地表気温も2016年を超えて過去最高値を記録した.過去半世紀の急激な気温上昇の最大要因は,二酸化炭素など温室効果気体の人為的な急激な増加と考えられている.

 温暖化が顕在化する以前から,異常高温・低温,豪雨・豪雪,干魃などの異常気象が世界各地で災害をもたらしていた.こうした異常気象は自然変動による気候系の揺らぎの現れで,我が国を含む中緯度・亜熱帯域や,亜寒帯・高緯度域の異常気象は主に上空の偏西風ジェット気流の顕著な蛇行を伴う.持続的なジェット気流の顕著な蛇行は,熱帯太平洋のエルニーニョ・ラニーニャ現象やインド洋ダイポールモード現象など,熱帯大気海洋系の自然変動からの遠隔影響によってももたらされる.また,熱帯・中緯度域では暖候期に台風など熱帯低気圧によっても災害がもたらされる.

 しかし,近年はこうした自然変動に,顕在化しつつある温暖化シグナルが重畳することにより,気温や降水量に以前には見られなかったような顕著な異常が観測されるようになってきた.例えば,2018年夏に東日本・西日本を襲った記録的猛暑は,熱中症による1500名超の犠牲者を出した.これはジェット気流の持続的北偏という自然変動に伴うものだが,産業革命以降の温室効果気体の増加の影響なしにはこれほどの記録的高温にはなり得なかったことが数値シミュレーションにより示されている.同様なことは,2019年夏の欧州の熱波や,豪州に大規模な森林火災をもたらした記録的な高温と乾燥,さらには2019・20年に我が国が経験した記録的暖冬にも言えよう.

 一方,「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」や2019年10月の台風19号に伴う東日本・北日本の広域豪雨など,近年の豪雨被害の甚大さの背景にも温暖化の顕在化の影響が否定できない.前者は,西日本に停滞し続けた梅雨前線に向けて過去最大級の多量の水蒸気が熱帯から流入し続けたために,広域に記録的雨量がもたらされ,瀬戸内地方を中心に犠牲者237名の甚大な被害となった.後者は,大型で勢力の強い台風が東日本をゆっくりと北上したために,広域に記録的雨量がもたらされ,犠牲者は97名に達した.両者の主要因は顕著な自然変動ではあるものの,顕在化する温暖化の影響が雨量を嵩上げした可能性がある.我が国の夏季平均気温は過去30余年で約1℃上昇したのに伴い,下層の水蒸気量も約10%増加し,大雨の強度もほぼ同じ割合で増大傾向にある.また,日本近海は全海洋平均よりも速いペースで温暖化が進んでおり,夏に熱帯からの暖湿気流が日本に流入するまでに,その対流不安定性が維持されるようになったことも豪雨強度の増大の背景にある.同時に,2019年の台風15・19号のように,余り減衰せずに日本に接近する台風が目につくようになっている.

 今後も温暖化の進行とともに,2018年夏のように,豪雨・猛暑・強い台風と,災害をもたらす異常気象が連鎖しやすくなる傾向が強まることが懸念される.地震や火山噴火などに豪雨・台風などが重なる複合災害への備えも忘れてはならない.