[O04-P09] ため池の「池干し」がリン循環に与える影響
キーワード:ため池、池干し、リン循環、溶出、有機物分解
【はじめに】ため池は雨水や河川水を貯め、稲作灌漑に利用されてきた。また、生物の生息場所の保全、地域の憩いの場を提供するなど多面的機能を果たしている。しかし、農家数の減少により灌漑用途としてのため池使用は減少し、管理が行き届いていないため池が増加している。このようにため池の管理が行き届かなくなると、水が長期間滞留することから水質悪化が懸念される。水質悪化を避けるため、多くのため池で伝統的におこなわれてきた「池干し」が見直されている。池干しとは、ため池において水利用の少ない冬期に一定期間水を抜き、底泥を乾燥させることである。そして、富栄養化した水の排出、底泥の洗い流し、栄養塩類の溶出抑制などにより水質改善が見込める。しかし、その水質改善についての詳細なメカニズムは不明な点が多い。これは、池干しによる有機物分解等の作用の違いを実験的に作り出すのが難しいからである。そこで私たちは、池干し下にある底泥を採取し、実態に即して検討することにした。具体的には、何十年も池干しをおこなっていない池と、毎年おこなっている池を選定し、リン循環の周年変化を比較し、違いを考察する。
【実験結果】本研究では、加古川市東部の台地上にあり、市街地化も同程度と立地環境が似ている2つの池を選定した。池干しをおこなっていない池が源太池、おこなっている池が新川池である(図1)。まず、この 2 つの池において底泥の堆積構造を調べ、サンプリングをおこなった(図2・3)。
実験1では、サンプルを天日干しして水分を除いた後、電気炉を用いて強熱減量(有機物量)を求めた。その結果、有機物量は源太池で平均 15.7%、新川池では 13.0%となった(図4)。これは t 検定では有意差である。
実験2では、モリブデン青法を測定原理とする試薬と吸光光度計とを使って、全リンと溶存態リンの溶出濃度を測定した。全リンについてはオートクレーブを使用している。実験開始後 25 日目における溶出濃度をみると、新川池の方が全リン・溶存態リンともに溶出が抑制されている(抑制率は順に 82.1%、55.5%)ことから、池干しの効果が大きいと考えられる(図5・6)。 全リンは有機態リンも含んでおり、源太池に有機物が多く含まれているという実験1の結果と整合する。
【考察】以上の結果に基づき、池干しをおこなう新川池のリン循環モデルを作成した(図7)。
①池干し前の湛水期は、水中の有機態リンが溶存酸素用いた微生物の活動で異化され、無機態リンとなる。底泥に含まれている Fe2+イオンが溶出して、酸化・水酸化反応により水酸化鉄に、PO43-イオンは水酸化鉄との吸着反応により沈降する。嫌気状態で還元が起き、リン酸イオンが溶出する。このリン酸イオンが植物プランクトンの栄養分となり、有機態リンに変わる。
② 池干しをおこない底泥が空気にさらされると、好気性微生物が活動し有機物が分解される。
③その後、新たに溶存酸素を多く含む水が流入してくる。起こる反応は池干し前の湛水期と同じであるが、溶存酸素をより多く含むため有機態リンから無機態リンへの異化、リン酸イオンの水酸化鉄との 吸着・沈殿がより活発になる。また、新たな溶存酸素を多く含む水が流入してくることで水中の溶存酸素量が増えるだけでなく、池干し期間中に換気によって有機物の分解が既に起きているので、水中の溶存酸素消費量が減り溶存酸素量の低下が抑制される。溶存酸素量は池干しをおこなっていない池よりも多くなり、有機態リンから無機態リンへの異化が進みやすい。
このように、①から③を一年かけて繰り返す。池干しをおこなうことで溶存酸素量が増え、結果的にリンが多く流入しても富栄養化を防ぐ作用が働くため、水質改善の効果を示す。底泥は沈殿したリンを保持する役割を果たしている。
【おわりに】池干しによる水質改善効果について、リンの周年的循環に注目し、その解明に取り組んだ結果、池干しによって単に溜まっていた水が酸素を多く含んだ水に入れ替わることで水質が改善されるだけではなく、換気により水質悪化の原因の一つである硫化水素の発生も抑制し、その後しばらくの間抑制効果が持続するということが分かった。
【実験結果】本研究では、加古川市東部の台地上にあり、市街地化も同程度と立地環境が似ている2つの池を選定した。池干しをおこなっていない池が源太池、おこなっている池が新川池である(図1)。まず、この 2 つの池において底泥の堆積構造を調べ、サンプリングをおこなった(図2・3)。
実験1では、サンプルを天日干しして水分を除いた後、電気炉を用いて強熱減量(有機物量)を求めた。その結果、有機物量は源太池で平均 15.7%、新川池では 13.0%となった(図4)。これは t 検定では有意差である。
実験2では、モリブデン青法を測定原理とする試薬と吸光光度計とを使って、全リンと溶存態リンの溶出濃度を測定した。全リンについてはオートクレーブを使用している。実験開始後 25 日目における溶出濃度をみると、新川池の方が全リン・溶存態リンともに溶出が抑制されている(抑制率は順に 82.1%、55.5%)ことから、池干しの効果が大きいと考えられる(図5・6)。 全リンは有機態リンも含んでおり、源太池に有機物が多く含まれているという実験1の結果と整合する。
【考察】以上の結果に基づき、池干しをおこなう新川池のリン循環モデルを作成した(図7)。
①池干し前の湛水期は、水中の有機態リンが溶存酸素用いた微生物の活動で異化され、無機態リンとなる。底泥に含まれている Fe2+イオンが溶出して、酸化・水酸化反応により水酸化鉄に、PO43-イオンは水酸化鉄との吸着反応により沈降する。嫌気状態で還元が起き、リン酸イオンが溶出する。このリン酸イオンが植物プランクトンの栄養分となり、有機態リンに変わる。
② 池干しをおこない底泥が空気にさらされると、好気性微生物が活動し有機物が分解される。
③その後、新たに溶存酸素を多く含む水が流入してくる。起こる反応は池干し前の湛水期と同じであるが、溶存酸素をより多く含むため有機態リンから無機態リンへの異化、リン酸イオンの水酸化鉄との 吸着・沈殿がより活発になる。また、新たな溶存酸素を多く含む水が流入してくることで水中の溶存酸素量が増えるだけでなく、池干し期間中に換気によって有機物の分解が既に起きているので、水中の溶存酸素消費量が減り溶存酸素量の低下が抑制される。溶存酸素量は池干しをおこなっていない池よりも多くなり、有機態リンから無機態リンへの異化が進みやすい。
このように、①から③を一年かけて繰り返す。池干しをおこなうことで溶存酸素量が増え、結果的にリンが多く流入しても富栄養化を防ぐ作用が働くため、水質改善の効果を示す。底泥は沈殿したリンを保持する役割を果たしている。
【おわりに】池干しによる水質改善効果について、リンの周年的循環に注目し、その解明に取り組んだ結果、池干しによって単に溜まっていた水が酸素を多く含んだ水に入れ替わることで水質が改善されるだけではなく、換気により水質悪化の原因の一つである硫化水素の発生も抑制し、その後しばらくの間抑制効果が持続するということが分かった。