[O04-P18] 過去に発生した4回の巨大ジェットと対流圏の気象現象との関係
キーワード:高高度発光現象、巨大ジェット
上空約20kmから約100kmの成層圏から熱圏下部で起こる放電発光現象の「高高度発光現象」.巨大ジェットもこの一種で,下端は高度約20km,上端は70~90kmの逆円錐型の発光現象である.スプライトやエルブスなど他の高高度発光現象は地表付近の落雷に伴って発生するのに対し,巨大ジェットは落雷を伴わずに発生することが多い特徴がある.本校では2007年から毎晩,3台の高感度CCDカメラを用いて高高度発光現象の観測を継続しているが,観測例の内訳は高高度発光現象全体で6700件を超えるのに対して,巨大ジェットは2008年11月,2010年11月,同年12月,2017年12月の4件と極めて少ない.他の観測地点でも同様に観測例が少なく,それ故発生メカニズムに関しては未解明の部分が大部分を占める.
しかし,本校には長きにわたる観測で得られた膨大な記録や,今までに収集した気象データ,同時観測された共同観測校などとのデータ共有により得られた巨大ジェットの発生位置情報がある.このデータを活用して研究を行えば,複数の巨大ジェットが発生した日,場所で共通する気象データなどを洗い出し,巨大ジェットの発生メカニズム解明につながる可能性があると考えられる.
過去の研究では,巨大ジェットの発生が確認されると必ずその発生位置や形態,周辺の気象状況などのデータを収集していた.特に昨年度の研究では,2017年12月に発生した巨大ジェットに関して,その発生原因を強い日射による海水温上昇と寒冷前線通過による上空の気温低下によって生じた強い上昇気流で積乱雲が急発達したためであると考察した.しかし,その考察の過程にはいくつかの問題点があった.一つは,4件の観測記録があるものの,調査対象とした巨大ジェットが1件のみであったことである.もう一つは,海水温の上昇と上空の気温低下の原因を先述のもの以外に検証していなかったことである.
本研究では,これらの問題を解決するため,まず,研究対象の巨大ジェットを本校で観測された4件すべてと,2019年9月に関東南方沖で発生したものを合わせた計5件とし,過去に行われてきた調査を行った.すると,太陽から地表面が受けたエネルギーを示す値である,直接日射と下向き赤外放射の巨大ジェット発生最寄り観測点の値が巨大ジェット発生月の他の日と比較しても特段大きいわけではなかったことが明らかになった.さらに,上空の気温が低下した原因とされていた寒冷前線の通過も,当てはまるのは5件のうち2件のみであった.これらの結果から,本当に海水温上昇と上空の気温低下が起こっていたのか,海水温図とラジオゾンデ高層気温データを用いて検証した.すると,海水温は平年の値よりも高い状態が巨大ジェットの発生した時期に続いており,上空の気温は,巨大ジェット発生日と前後各1週間の平均を比較すると,対流圏内に巨大ジェット発生日の方が低くなっているところがあった.以上のことから,先行研究で説明されていた状況は正しいことが分かった.しかし,それはこの状況をもたらした原因が他にあることを意味した.まず,我々は海水温の上昇の原因が日射ではないという結果から,その場所で海水が暖められたのではなく,他の海域から暖かい海水が流入したことを予想した.そのため,我々は海流の流速を示す図を用い,海流の様子を検証した.すると,データが得られた2件の巨大ジェットの発生地点はいずれも暖流である日本海流の流れが速い海域の終端付近あることが分かった.このことから,熱帯付近からの温かい海水が急速に運ばれることで温度が高いままジェット発生地点付近に届き,そこで滞留していたと考えられる.次に,上空の気温の低下の原因については,また天気図から読み取ることができた.5件の巨大ジェット発生日のうち,寒冷前線が通過していない3日はいずれも巨大ジェット発生地点付近に低気圧があり,中国大陸東岸に高気圧がある,北高南低の気圧配置になっていることが分かった.これにより,シベリア方面からの寒気が流入していたことが考えられる.
以上のことから,この5件の巨大ジェットに共通する発生メカニズムを考察した.その結果,巨大ジェットは暖流による海水温上昇と,寒冷前線の通過または北高南低の気圧配置による上空への寒気の流入で生じた温度差で発生した強い上昇気流が積乱雲の発達と雲内の氷晶が激しい衝突を起こし,それによる莫大な電荷の分離から,大きな電荷を蓄えた積乱雲から放電が発生し,これが巨大ジェットとなったという結論に達した.また,暖流の流速が速い海域の終端付近で寒冷前線の通過または北高南低の気圧配置になると巨大ジェットが発生しやすいことから,四国から関東の南方沖や千葉・茨城県沖で巨大ジェットが発生しやすいと考察した.
しかし,本校には長きにわたる観測で得られた膨大な記録や,今までに収集した気象データ,同時観測された共同観測校などとのデータ共有により得られた巨大ジェットの発生位置情報がある.このデータを活用して研究を行えば,複数の巨大ジェットが発生した日,場所で共通する気象データなどを洗い出し,巨大ジェットの発生メカニズム解明につながる可能性があると考えられる.
過去の研究では,巨大ジェットの発生が確認されると必ずその発生位置や形態,周辺の気象状況などのデータを収集していた.特に昨年度の研究では,2017年12月に発生した巨大ジェットに関して,その発生原因を強い日射による海水温上昇と寒冷前線通過による上空の気温低下によって生じた強い上昇気流で積乱雲が急発達したためであると考察した.しかし,その考察の過程にはいくつかの問題点があった.一つは,4件の観測記録があるものの,調査対象とした巨大ジェットが1件のみであったことである.もう一つは,海水温の上昇と上空の気温低下の原因を先述のもの以外に検証していなかったことである.
本研究では,これらの問題を解決するため,まず,研究対象の巨大ジェットを本校で観測された4件すべてと,2019年9月に関東南方沖で発生したものを合わせた計5件とし,過去に行われてきた調査を行った.すると,太陽から地表面が受けたエネルギーを示す値である,直接日射と下向き赤外放射の巨大ジェット発生最寄り観測点の値が巨大ジェット発生月の他の日と比較しても特段大きいわけではなかったことが明らかになった.さらに,上空の気温が低下した原因とされていた寒冷前線の通過も,当てはまるのは5件のうち2件のみであった.これらの結果から,本当に海水温上昇と上空の気温低下が起こっていたのか,海水温図とラジオゾンデ高層気温データを用いて検証した.すると,海水温は平年の値よりも高い状態が巨大ジェットの発生した時期に続いており,上空の気温は,巨大ジェット発生日と前後各1週間の平均を比較すると,対流圏内に巨大ジェット発生日の方が低くなっているところがあった.以上のことから,先行研究で説明されていた状況は正しいことが分かった.しかし,それはこの状況をもたらした原因が他にあることを意味した.まず,我々は海水温の上昇の原因が日射ではないという結果から,その場所で海水が暖められたのではなく,他の海域から暖かい海水が流入したことを予想した.そのため,我々は海流の流速を示す図を用い,海流の様子を検証した.すると,データが得られた2件の巨大ジェットの発生地点はいずれも暖流である日本海流の流れが速い海域の終端付近あることが分かった.このことから,熱帯付近からの温かい海水が急速に運ばれることで温度が高いままジェット発生地点付近に届き,そこで滞留していたと考えられる.次に,上空の気温の低下の原因については,また天気図から読み取ることができた.5件の巨大ジェット発生日のうち,寒冷前線が通過していない3日はいずれも巨大ジェット発生地点付近に低気圧があり,中国大陸東岸に高気圧がある,北高南低の気圧配置になっていることが分かった.これにより,シベリア方面からの寒気が流入していたことが考えられる.
以上のことから,この5件の巨大ジェットに共通する発生メカニズムを考察した.その結果,巨大ジェットは暖流による海水温上昇と,寒冷前線の通過または北高南低の気圧配置による上空への寒気の流入で生じた温度差で発生した強い上昇気流が積乱雲の発達と雲内の氷晶が激しい衝突を起こし,それによる莫大な電荷の分離から,大きな電荷を蓄えた積乱雲から放電が発生し,これが巨大ジェットとなったという結論に達した.また,暖流の流速が速い海域の終端付近で寒冷前線の通過または北高南低の気圧配置になると巨大ジェットが発生しやすいことから,四国から関東の南方沖や千葉・茨城県沖で巨大ジェットが発生しやすいと考察した.