[O04-P26] 守屋層についての研究
キーワード:守屋層、地質年代、堆積環境
1.研究動機・目的
2019年、守屋累層臼沢砂岩部層(以下臼沢砂岩部層と表記)にて軟体動物化石をいくつか採集した。従来、守屋累層は初期中新世の海成層とされているが、採集した化石の一部に、異なる時期の示準化石が含まれており、疑問に思った。そこで臼沢砂岩部層の地質年代や堆積環境を明らかにしたいと考えた。
2.研究方法
本調査では、臼沢砂岩部層に相当する三か所の露頭で地質調査を行い、調査地点をそれぞれ下位から露頭A、B、Cとし、岩相や産出化石を調べた。
3.調査結果
露頭A…下位より砂礫層、シルト層で、偽礫層が不整合に砂礫層に含まれている。砂礫層からはアナダラやマコマ等が多産する。一方、シルト層からはシオガママルフミガイやキムラホタテ等が多産する。また、露頭Aは合弁状態で産出するものが多く、砂礫層のほうがシルト層よりも産出数が多かった。
露頭B…砂岩とシルトの互層で、砂岩層からは化石は産出しなかったが、シルト層からは化石が産出した。下部のシルト層は、砂を多く含む。浅海性と深海性の両種の化石が産出したこと、多くの化石が破損しており、離弁状態で見つかったことから、異地性の化石と考えられた。しかし、上位になるにつれ含まれる砂の量は減り、完全な状態のキムラホタテやツノガイの化石が産出した。上位のシルト層は露頭Aのシルト層と、岩相と産出化石において共通点が見られた。
露頭C…臼沢砂岩部層の上位層である、後山黒色泥岩層との境界の近くに位置する。急斜面であり、露頭から十分な試料を採集することができなかったため、転石も採集した。下位より砂岩とシルトの互層、シルトと泥岩の互層、砂岩とシルトの互層、と繰り返しており、砂岩層が最上位に位置する。シルト層ではサンドパイプが、泥岩層では有孔虫が産出したが、後者は印象化石であり、明確な種類の特定には至らなかったが、シクラミナの仲間と思われる。また、最上位の砂岩層からカキが多産した。
4.考察
臼沢砂岩部層の地質年代
今回の調査で、中新世以降に発達する化石種が多産した。その中には、シオガママルフミガイやキムラホタテなど、中期中新世の示準化石が多く含まれる。よって臼沢砂岩部層は中期中新世の海成層である考えた。従来、産出化石の少なさや、位置があまりにも離れていることから、内村層は守屋層の上位層とされていたが、産出化石から、守屋層と内村層は同時期の地層であると判明した。
臼沢砂岩部層の堆積環境
露頭A…下位からアナダラやマコマが、上位からはキムラホタテやシオガママルフミガイが産出した。前者は浅海内湾の砂泥底に生息し、後者は外洋の水深100mほどの海に生息する。また、岩相も砂礫からシルトに移行していることから、海が深くなっていったと考えた。
露頭B…下位は砂を含むシルトからなり、浅海性、深海性の両種の化石を含んでおり、上位になるにつれ、含まれる砂の量が減り、深海性の貝化石のみが発見されることから、海が深くなっていったと考えられる。
露頭C…産出化石は非常に少なかったので、岩相の変化から水深の変化を調べた。下位より砂岩とシルトの互層、シルトと泥岩の互層、砂岩とシルトの互層と繰り返していることから、何度か海進、海退を繰り返していた可能性がある。また、最上位の砂岩層からカキ化石が多産したので、カキが生息するのに適した、内湾性の穏やかな淡水の混じる汽水性の水域が広がっていた、と考えた。産出数の多さから、カキがコロニーを形成し、そのまま化石となった可能性もある。
以上から臼沢砂岩部層では、海進、海退を繰り返しながら地層が堆積していったと考えた。臼沢砂岩部層以降は、海が段々と深くなっていくことから臼沢砂岩部層は、フォッサマグナの海が次第に公海性に発展していく、途中の段階を示すものと考えられる。
5.産出化石の比較
今回産出した化石を中新世フォッサマグナ地域の産出化石と、鎮西清高他(1987)などを用いて比較したところ、種類に大きな違いは見られなかった。その中で、守屋累層ではアナダラが発達し、南部フォッサマグナの発達種と違いが見られることがわかった。今後、守屋層とフォッサマグナ地域の海の繋がりが明らかになる可能性がある。
6.今後の課題
今回は内村層での地質調査を行うことができなかった。今後は守屋層と内村層の比較をし、両層の詳細な関係性を明らかにしたい。さらに、フォッサマグナ地域の産出化石との比較を続けていきたい。
7.謝辞
本研究を行うにあたり、戸隠地質化石博物館田辺智隆先生をはじめ、学芸員の皆様に協力していただきました。ここに感謝を申し上げます。
8.参考文献
[1] 諏訪の自然誌地質編(1987)諏訪教育会
[2] 守屋山付近の第三系(1962)田中邦雄他
[3] 南部フォッサマグナ地域の新第三期貝化石群(1987)鎮西清高他
[4] 学生版日本古生物図鑑(北隆館)
2019年、守屋累層臼沢砂岩部層(以下臼沢砂岩部層と表記)にて軟体動物化石をいくつか採集した。従来、守屋累層は初期中新世の海成層とされているが、採集した化石の一部に、異なる時期の示準化石が含まれており、疑問に思った。そこで臼沢砂岩部層の地質年代や堆積環境を明らかにしたいと考えた。
2.研究方法
本調査では、臼沢砂岩部層に相当する三か所の露頭で地質調査を行い、調査地点をそれぞれ下位から露頭A、B、Cとし、岩相や産出化石を調べた。
3.調査結果
露頭A…下位より砂礫層、シルト層で、偽礫層が不整合に砂礫層に含まれている。砂礫層からはアナダラやマコマ等が多産する。一方、シルト層からはシオガママルフミガイやキムラホタテ等が多産する。また、露頭Aは合弁状態で産出するものが多く、砂礫層のほうがシルト層よりも産出数が多かった。
露頭B…砂岩とシルトの互層で、砂岩層からは化石は産出しなかったが、シルト層からは化石が産出した。下部のシルト層は、砂を多く含む。浅海性と深海性の両種の化石が産出したこと、多くの化石が破損しており、離弁状態で見つかったことから、異地性の化石と考えられた。しかし、上位になるにつれ含まれる砂の量は減り、完全な状態のキムラホタテやツノガイの化石が産出した。上位のシルト層は露頭Aのシルト層と、岩相と産出化石において共通点が見られた。
露頭C…臼沢砂岩部層の上位層である、後山黒色泥岩層との境界の近くに位置する。急斜面であり、露頭から十分な試料を採集することができなかったため、転石も採集した。下位より砂岩とシルトの互層、シルトと泥岩の互層、砂岩とシルトの互層、と繰り返しており、砂岩層が最上位に位置する。シルト層ではサンドパイプが、泥岩層では有孔虫が産出したが、後者は印象化石であり、明確な種類の特定には至らなかったが、シクラミナの仲間と思われる。また、最上位の砂岩層からカキが多産した。
4.考察
臼沢砂岩部層の地質年代
今回の調査で、中新世以降に発達する化石種が多産した。その中には、シオガママルフミガイやキムラホタテなど、中期中新世の示準化石が多く含まれる。よって臼沢砂岩部層は中期中新世の海成層である考えた。従来、産出化石の少なさや、位置があまりにも離れていることから、内村層は守屋層の上位層とされていたが、産出化石から、守屋層と内村層は同時期の地層であると判明した。
臼沢砂岩部層の堆積環境
露頭A…下位からアナダラやマコマが、上位からはキムラホタテやシオガママルフミガイが産出した。前者は浅海内湾の砂泥底に生息し、後者は外洋の水深100mほどの海に生息する。また、岩相も砂礫からシルトに移行していることから、海が深くなっていったと考えた。
露頭B…下位は砂を含むシルトからなり、浅海性、深海性の両種の化石を含んでおり、上位になるにつれ、含まれる砂の量が減り、深海性の貝化石のみが発見されることから、海が深くなっていったと考えられる。
露頭C…産出化石は非常に少なかったので、岩相の変化から水深の変化を調べた。下位より砂岩とシルトの互層、シルトと泥岩の互層、砂岩とシルトの互層と繰り返していることから、何度か海進、海退を繰り返していた可能性がある。また、最上位の砂岩層からカキ化石が多産したので、カキが生息するのに適した、内湾性の穏やかな淡水の混じる汽水性の水域が広がっていた、と考えた。産出数の多さから、カキがコロニーを形成し、そのまま化石となった可能性もある。
以上から臼沢砂岩部層では、海進、海退を繰り返しながら地層が堆積していったと考えた。臼沢砂岩部層以降は、海が段々と深くなっていくことから臼沢砂岩部層は、フォッサマグナの海が次第に公海性に発展していく、途中の段階を示すものと考えられる。
5.産出化石の比較
今回産出した化石を中新世フォッサマグナ地域の産出化石と、鎮西清高他(1987)などを用いて比較したところ、種類に大きな違いは見られなかった。その中で、守屋累層ではアナダラが発達し、南部フォッサマグナの発達種と違いが見られることがわかった。今後、守屋層とフォッサマグナ地域の海の繋がりが明らかになる可能性がある。
6.今後の課題
今回は内村層での地質調査を行うことができなかった。今後は守屋層と内村層の比較をし、両層の詳細な関係性を明らかにしたい。さらに、フォッサマグナ地域の産出化石との比較を続けていきたい。
7.謝辞
本研究を行うにあたり、戸隠地質化石博物館田辺智隆先生をはじめ、学芸員の皆様に協力していただきました。ここに感謝を申し上げます。
8.参考文献
[1] 諏訪の自然誌地質編(1987)諏訪教育会
[2] 守屋山付近の第三系(1962)田中邦雄他
[3] 南部フォッサマグナ地域の新第三期貝化石群(1987)鎮西清高他
[4] 学生版日本古生物図鑑(北隆館)