JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 O (パブリック) » パブリック

[O-05] 日本のジオパークから日本列島の成り立ちを知る

2020年7月12日(日) 16:00 〜 17:30 Ch.2

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、今井 ひろこ(コムサポートオフィス/和歌山大学国際観光学研究センター)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、座長:郡山 鈴夏(山陰海岸ジオパーク推進協議会)

16:00 〜 16:30

[O05-04] 糸魚川ジオパークからわかる日本列島のできかた

★招待講演

*竹之内 耕1茨木 洋介1小河原 孝彦1 (1.糸魚川フォッサマグナミュージアム)

キーワード:フォッサマグナ、糸魚川ー静岡構造線、日本列島、糸魚川ジオパーク

糸魚川ユネスコ世界ジオパーク(以下,糸魚川ジオパーク)は,古生代から新生代にかけて形成された,多様な形成環境を示す変成岩・火成岩・堆積岩からなる.さらに,フォッサマグナや糸魚川―静岡構造線(以下,糸静線)などの地質構造がある.これらの岩石や地質構造から,日本列島が大陸に帰属していた時代からその誕生,そして現在に至るまでの形成史を理解することができる.海岸では,山岳地域を構成しているさまざまな岩石が見られ,さらに手のひらサイズに円磨されて岩石組織がよくわかるので,岩石学習に最適な海岸となっている。このように,弧状列島を代表する日本列島の約5億年以上におよぶ形成史を理解できることが糸魚川ジオパークの強みである.これらの形成史は,糸魚川ジオパークの拠点博物館であるフォッサマグナミュージアムに展示されており,見学できるジオサイトと日本列島形成史とのつながりを理解することに役立っている.
 糸魚川ジオパークでは,およそ以下のような日本列島形成史を知ることができ,それぞれ私たちの暮らしと深く関わっている.
 ヒスイ(古生代):沈み込むプレートの大陸の地下深部で誕生したヒスイは,多様な変成岩(新鉱物や稀産鉱物を含む)とともに蛇紋岩と一緒に地下浅部へ上昇した.また,第四紀以降,隆起した山岳地域で発生した土石流によって,ヒスイを含む変成岩などが海岸へ運ばれた.縄文時代の人々は,海岸でヒスイを拾って大珠に加工して,世界最古のヒスイ文化をつくった.ヒスイは,縄文人の精神性を伺い知れる石として初めて日本列島全体に拡散された岩石である.
 石灰岩(古生代):古太平洋の火山島の山頂部や周囲に生じたサンゴ礁が,プレートによって運ばれる過程で厚く成長し,それが石灰岩となった.厚い石灰岩体は第四紀以降の隆起によって,深い縦穴の洞窟を形成し,横穴が発達する他の日本のものとは異なるカルスト地形を形成した.夏季でも残雪があり,氷河期の環境が保持されているドリーネ底では,気候変動と地殻変動を知ることができる.
 来馬層群(中生代):ジュラ紀の地層であり,動物や植物化石を含んでいる.これらの植物化石はのちに石炭となり,明治~昭和時代にかけて断続的に石炭鉱山が稼行された.糸魚川ジオパークにはまだ発見されていない恐竜化石を求めて,新潟大学やフォッサマグナミュージアムが共同して地質調査が行われている.
 フォッサマグナ・糸静線(新生代):日本列島がアジア大陸から離れた時に開裂したフォッサマグナは,おもに海底に堆積した地層や岩石(砂岩や泥岩と火山噴出物)で埋め立てられている.地層からは,クジラなどの海生哺乳類の化石が発見されており,海底が隆起して山々ができたことがわかる.フォッサマグナが隆起した頚城山塊(標高2000m級)と中・古生代の岩石が隆起した飛騨山脈(標高3000m級)の間には南北方向の最高約1000mの谷地形がある.これは,糸静線の断層破砕帯が差別的に浸食されてできた谷地形である.フォッサマグナの形成時に活動を開始した糸静線の断層破砕帯がフォッサマグナパークで見学できる.糸静線に沿ってできた低地帯には,古道・塩の道ができた.土石流や洪水が多発する危険な河川沿いには,道がつけられなかったことによる.塩の道は,糸魚川から信濃へは塩や海産物が,逆方向にはたばこや穀類が運ばれた庶民の交易の道であった.
 活火山新潟焼山・地すべり・土石流・雪崩(新生代):約3000年前に誕生した焼山は,日本で最も若い複成火山の一つであり,過去に溶岩や火砕流を噴出してきた危険な火山である.気象庁による常時観測火山であり,火山防災活動が行われている.第四紀以降の山地の隆起によって,地すべりや土石流,雪崩災害が多発してきた.一方,温泉や火山景観,棚田など人間生活に恵みをもたらし,また,土石流が発生しなかったらヒスイ文化は生じなかった.禍福はあざなえる縄のごとしのような大地と暮らしの関係が,糸魚川ジオパークから読み取ることができる.