JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[O-05] 日本のジオパークから日本列島の成り立ちを知る

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、今井 ひろこ(コムサポートオフィス/和歌山大学国際観光学研究センター)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)

[O05-P12] プレート衝突とアポイ岳ジオパークの人々の暮らし

*加藤 聡美1 (1.アポイ岳ジオパーク推進協議会)

キーワード:アポイ岳、幌満かんらん岩、プレート

アポイ岳ジオパークの特徴
 アポイ岳ジオパークは、北海道日高山脈南端に位置する様似町全域をエリアとするユネスコ世界ジオパークである。ジオパークの名前になっているアポイ岳は、町東部にそびえる標高810mの山で、山全体が上部マントル由来のかんらん岩でできている。アポイ岳ジオパークが記録する日本列島形成に関わる出来事はプレート衝突である。始新世にユーラシアプレートと北米プレートが接合(Kimura, 1996 ; Arita et al., 1993ほか)、前期中新世には太平洋プレートの斜め沈み込みにより北米プレート南縁の千島弧が西進し衝上し、日高山脈の形成が始まった。1,300万年前頃(宮坂ほか, 1986)には地下50-60kmの上部マントルに由来するアポイ岳も地表に露出したと言われている(新井田,1999)。アポイ岳ジオパークの特徴は、プレート衝突によって形成された「日高山脈・アポイ岳」と「海食崖」である。本発表ではこれまで十分に取り扱えていなかった様似町の基幹産業「漁業」について検討する。またアポイ岳の高山植物について理解を深める新たな切り口について検討する。
昆布の生育環境と人々の暮らし
 この地に人々が住む理由の一つは、和食の出汁に必要不可欠な「昆布」が産することである。日本の昆布生産量の9割は北海道であり、世界でも昆布は寒いところに生息する海藻である。昆布の祖先は北極海であり、氷河期~間氷期にかけて分布域を変えながら現在のように多くの種類に分化し、それぞれの海洋環境に適応して進化した。この地は良質な昆布が産する場所で、昆布採取の記録は江戸時代天明年代のものがあり、古くから昆布漁が行われていた。しかし近年海藻の生育環境が変化している。プレートによって生じた平成15年の十勝沖地震で、このあたりの土地は19cm沈降し、海岸線が陸に近づくとともに海藻の生息域が陸に近づき、特に潮間帯付近に生育するフノリの生育域が減ったと言われている。このように沈降も要因の一つであるが、近年海藻の生育場所が変化し、昆布の生育する環境も変化している。変動する大地と自然の絶妙なバランスの中で私たちは生活している。
アポイ岳の高山植物と研究者がもたらしたもの
 もう一つの特徴「アポイ岳」は、高山植物が数多く生育する山であり、地元住民によって高山植物が大切にされてきた。なぜアポイ岳に高山植物がみられるのかについて、富士山(3,776m)とアポイ岳(810m)を比較してみる。標高の高い富士山よりもアポイ岳の方が高山植物を多く見ることができる。高山植物は過去の氷期に高緯度地域から中緯度地域に分布を広げ、間氷期に分布を縮小する際、高山帯など一部の冷涼な環境に取り残されたと考えられている。その時代にアポイ岳はあり、富士山は形成途中であった。このことが違いの要因の一つである。プレート衝突がアポイ岳をつくらなければ、高山植物を見ることができなかったかもしれない。さて、その貴重な自然環境がある様似町では戦後間もなくから植物や岩石の研究者が、アポイ岳や幌満を拠点に、長期滞在して研究を行っていた。当時から地元住民は彼らの研究をいろいろとサポートしていたが、それ以外にも地元の学芸員などを中心として調査の手伝いなどを行ってきた。これらの支援によって育まれた関係を活かし、ふるさとジオ塾などの講師や、論文収集などの知的財産蓄積につながっているのがアポイ岳ジオパークの特徴そして土台となっている。
まとめ
 発表では、プレート衝突によってつくられた地形が人々の暮らしに関係したこととして、自然と共に行われてきた昆布やフノリ漁、高山植物を大切にしてきた人々、この地域を訪れる研究者を取り上げ関わりについて議論する。また、地域資源と他地域とのつながりを見出し、見方の幅を広げる可能性を検討する。
参考文献
[1]Arita, K., Shingu, H., and Itaya, T.(1993)K-Ar geochronological constraints on tectonics and exhumation of the Hidaka metamorphic belt, Hokkaido, northern Japan. Jour. Mineral. Petrol. Econ. Geol. / Ganko, 88.3, 101-113. [2]Kimura, G(1996)Collision orogeny at arc‐arc junctions in the Japanese Islands. Island arc, 262-275. [3]宮坂省吾・保柳康一・渡辺寧・松井愈(1986)礫岩組成から見た中央北海道の後期新生代山地形形成史, 地団研専報告, 31, 285-294. [4]新井田清信(1999)日高山脈:島弧深部でできた岩石, 北海道大学総合博物館学術資料展示解説書「北の大地が海洋と出会うところ-アイランド・アーク-」