JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[O-05] 日本のジオパークから日本列島の成り立ちを知る

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、今井 ひろこ(コムサポートオフィス/和歌山大学国際観光学研究センター)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)

[O05-P31] 和歌山県中部の小流域3河川の河川地形特性からみる世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」

*小玉 芳敬1平 一貴2 (1.鳥取大学農学部、2.和歌山県)

キーワード:世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」、微高地、沖積層基底、河川地形、緩傾斜丘陵

はじめに
 平成27(2015)年12月15日に和歌山県中部の南高梅産地が「みなべ・田辺の梅システム」世界農業遺産(GIAHS)に認定された.南紀熊野に隣接するエリアである.南部は和歌山県中部の南部平野に位置し、流域面積100 km以下の小規模流域が隣接する地域にある.西から順に切目川流域(75.6 km2),南部川流域(96.5 km2),芳養川(43.0 km2)で、南部川と芳養川流域が南高梅の一大産地である.本研究の目的は,3川の流域・河川地形特性を明らかにし、梅栽培との関係を考察することである.

沖積低地に分布する微高地
 微高地の分布を,2.5万分の1地形図の畑地や集落より図化した.その結果,沖積低地に占める微高地の割合は,芳養川の中流域が最も高く,次いで南部平野で,切目川の微高地割合は低かった.3川の河原で表面砂礫1 m²を写真撮影し(切目川:6地点,南部川:4地点,芳養川:5地点),画像解析によりΦ1 cm以細の砂礫が占める面積比率を求めた.その結果,山間部では3河川とも1%以下であったが,沖積低地部では芳養川で最大値90%を示し,南部川で20%,切目川で2%以下であった.
 微高地(自然堤防)の発達割合と沖積低地部の河床表面に占める細粒岩屑の割合は,良い相関を示した.微高地の形成にはΦ0.5 mm以細の浮遊砂となり得る岩屑の多寡が影響する.画像解析したΦ1 cm以細の砂礫中に,おそらく浮遊砂が多く含まれる.河床材料に違いをもたらした原因は南部川左岸側から芳養川右岸側へ続く,標高150 m以下の低い丘陵地にあると推定される.この丘陵は,周辺と比べ異質な地形を示しており,差別侵食が早く進んだ組織地形と判断される.ここに細砂~中砂サイズの浮遊砂成分が多く含まれ,これが現河床堆積物に反映し微高地の形成に寄与した可能性が指摘できる.現在これら微高地の多くが紀州南高梅の梅畑として利用されており,みなべ,芳養の地域で梅栽培が栄えた理由の1つと指摘できる.

沖積平野の規模
ⅰ)谷底幅の縦断変化
 地形図より等高線が密になる山麓線を抽出し,河道沿いに100 m間隔で谷底幅を計測した.その結果,南部川は下流3 km区間で最大1.7 kmの広い谷底を示し,5 kmより上流側では急に狭くなり100 m以下となり,さらに上流では200 m前後であった.切目川では下流1.5 km区間の谷底幅が最大1.2 kmと広く,7 kmより上流側では200 m程に狭くなった.ただし上流9~11 km付近では800 m程の谷底幅を示した.芳養川では,1.5 km付近で幅約600 mの谷底が,上流10 km地点でも約420 mと,上下流で谷底幅の変化が小さかった.ただし谷底幅には300 m程の周期的変動が特異的に認められた.
ⅱ)ボーリング柱状図から推定する沖積低地の地下構造
 次に3河川の平野部においてボーリングデータを収集し,沖積低地の地下構造を明らかにした.貝殻片を含むシルト層や砂層を縄文海進の痕跡と捉え,またN値50以上の砂礫層や基盤岩を沖積層基底と推定した.その結果,沖積層基底の標高は,南部川で約-45 m(海岸線付近),切目川で約-20 m(河口より1.9 km地点),そして芳養川で約-26 m(河口より0.4 km地点)に認められた.
ⅲ)段丘面の投影縦断から想定する埋没谷底の深さ
 国土地理院の空中写真(1976)を判読し,段丘面を区分し,投影縦断図を作成した.南部川と切目川には河岸段丘面が良好に認められた.段丘面が沖積低地に埋没する深さを段丘面の近似線から推定したところ,南部川では河口部で標高-58 m,切目川では-34 mと推定された.ボーリング柱状図の沖積層基底面と段丘より推定した埋没段丘面の標高には,1~6 mほどの差しかなかった.
ⅳ)考察 
 氷期に深い谷を下刻できた南部川では,現在南部平野の広大な沖積低地を形成している.逆に氷期に浅い谷しか下刻できなかった芳養川は,狭い沖積低地(谷底平野)を成している.両者の違いは,流域から流れ出る砂礫量の多寡を反映していると考えられる.

おわりに
 調査対象河川の地形特性に関して,微高地の分布割合は河床材料に占める細粒岩屑の比率と対応し,沖積低地の規模は沖積層基底の深さに対応していることが明らかになった.南高梅は、南部川と芳養川の流域間に位置する特異な丘陵が生産拠点となっていた.最近では沖積低地の微高地で生産の安定化を図っている.いっぽう切目川では海成段丘を利用した野菜栽培が古くから営まれてきた.このように南高梅の立地には、地形的背景が存在する.

謝辞 本研究で分析に使用したボーリングデータは,NEXCO西日本和歌山高速道路事務所様,および,みなべ町教育委員会様に提供していただきました.ここに厚く御礼申し上げます.