JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[O-05] 日本のジオパークから日本列島の成り立ちを知る

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、市橋 弥生(佐渡ジオパーク推進協議会)、今井 ひろこ(コムサポートオフィス/和歌山大学国際観光学研究センター)、小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)

[O05-P33] サイトに設置されている解説看板の評価2-島原半島ユネスコ世界ジオパークの関連施設「ほっとふっと105」の例-

大嶋 健心1栗田 悠衣1河添 未夕1竹市 琳菜1大平 彩佳1馬場 歩花1相良 明由子1中村 渚沙1村岡 拓治2東内 敏紀2、*大野 希一3 (1.長崎県立口加高等学校グローカルコース、2.長崎県立口加高等学校、3.島原半島ジオパーク協議会事務局)

キーワード:島原半島ユネスコ世界ジオパーク、解説看板、長崎県立口加高等学校

はじめに
 ジオパークを訪れる観光客にジオパークを楽しんでもらうためには,わかりやすい解説看板(以下,看板)をサイトや関連施設に設置する事が必要不可欠である.しかし既存の看板の多くは地形学や地質学の専門知識を有する専門員が作成しており,その内容は観光客にとって必ずしもわかりやすいものであるとは言えない.そこで我々はサイトに設置された看板に対する閲覧者の評価に関する調査を行った(太田・他,2019).太田・他(2019)は,看板の閲覧時間が平均約22秒であること,写真や図を多用すると閲覧者からの評価は上がるが,説明内容を充実させると評価が下がる,等の結論を得た.また看板閲覧者のニーズを検討することなくその内容とデザインを変更したため,修正看板が看板閲覧者のニーズに即していたかどうかが判断できない,という課題も明らかになった.そこで今回は事前に看板閲覧者に既存看板に対するアンケートを行い,その結果をもとに修正看板を作成した.そして修正看板についても同様のアンケート調査を行い,両者の比較を通じて,より看板閲覧者のニーズに即した看板の設置を目指した

手法
 今回調査対象とした「ほっとふっと105」は,長崎県雲仙市小浜町に位置する全長105 mの足湯を有する観光施設で,その長さは日本一と言われる.この施設は年間約15万人が来訪するため,看板閲覧者に対するヒアリング調査がしやすい,という利点がある.この施設に設置されている既存看板を対象に,2019年8月7日および10月5日に,看板閲覧者に直接ヒアリングを行い,太田・他(2019)と同様の手法で看板の印象(写真・文字数・文字のサイズ・説明文の内容)を6段階で評価して頂いた.そしてこの評価結果やコメントをもとに作成した修正看板を,同年11月16日および12月7日に設置し,同様の調査を行った.さらにそれらの結果の比較を通じて,看板全体の質の変化を比較検証した.

結果
【既存看板について】
 閲覧者89名から,既存看板の説明文と写真について,6を最高に6段階で評価して頂いたところ,説明文の評価は平均4.1,写真については平均4.2となった.
 次に文字数・文字サイズについては3.5を最適値とし,文字数・文字サイズが「大きすぎる・多すぎる」と感じた場合を6,「小さすぎる・少なすぎる」と感じた場合を1として評価して頂いたところ,文字数は平均で4.2,文字サイズは平均で2.8となった.

【修正看板について】
 既存看板には小浜地域に温泉が湧き出すメカニズムは記述されているものの,その内容は難解であり,また温泉を用いた人々の生活文化に関する情報は全く書かれていなかったことから,その内容は観光客の関心を引くものとは言えなかった.そこで修正看板では,閲覧者からのコメントを踏まえつつ,日本一長い足湯を作ることができるほど高温の温泉が豊富に湧きだす理由と,温泉と人々の生活との関わりを伝える看板の作成を目指した.よって修正看板では,観光客の目を惹きつける見出しを付けたほか,文字数を減らし,文字のサイズと写真を大きくした.また子どもにも興味を持ってもらえるよう,看板の中にクイズ形式の問いかけを記述した.温泉の湧出メカニズムについては内容を簡略化して記述したほか,小浜温泉と地域の生活との関わりを象徴するものとして,温泉水を使った食べ物を写真付きで紹介した.また,小浜温泉の泉質であるナトリウム―塩化物泉の効能も追記した.
 このような意図に基づいて作成した修正看板について44名にヒアリングを行ったところ,説明文の評価が平均5.1,写真については平均5.0となり,既存看板に比べてその評価が1.0ポイント近くも向上した.その一方で,文字数の評価は平均5.0,文字サイズのそれは平均4.8となり,既存看板に比べて「多すぎる」「大きすぎる」という結果となった.

考察
 修正看板の説明文の評価が既存看板のそれに比べて大幅に向上したのは,既存看板に対する閲覧者の印象を把握したうえで板面の内容を検討したためと言える.また,修正看板に掲載した文字数と内容が適切だったことも,良い評価を得た理由と考えられる.22秒という閲覧時間(太田・他,2019)の間に読むことが出来る文字数は,260文字程度と見積もられる.これに対し,修正看板の文字数は257文字であったこと,またその内容を平易に修正したことが,説明文の評価の向上に繋がったと考えられる.その一方で,実際の文字数は修正看板より既存看板の方が多いにもかかわらず,閲覧者が「修正看板の方が文字数が多い」と感じたのは,看板のデザインに伴って生じた板面に対する印象の差と考えられる.

今後の展望
 既存の観光情報から一歩踏み込んだ情報を掲載した看板を観光地に設置することができれば,観光客はその観光地を今までとは違った視点で楽しむ事が出来るであろう.今後は看板のデザインが与える閲覧者の印象の変化に関する調査を継続していく予定である.