JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-06] キッチン地球科学:手を動かす実験で頭脳を刺激しよう!

コンビーナ:熊谷 一郎(明星大学理工学部)、久利 美和(気象庁)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、栗田 敬、座長:熊谷 一郎(明星大学理工学部)

[O06-03] 重力の魔術師をめざして 〜微小重力発生装置と重力可変装置の製作と実験〜

★招待講演

*久好 圭治1谷口 真基2江菅 純一3 (1.大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻, 大阪府立大手前高等学校、2.大阪府立今宮工科高等学校 定時制の課程、3.大阪府立春日丘高等学校)

キーワード:微小重力発生装置、重力可変装置、クレーター形成、磁気分離

宇宙環境を実験室や教室に持ち込めないかと考え微小重力発生装置と重力可変装置の開発を行った.

微小重力は物体を自由落下させることで手軽に実現できる.しかし,精密実験を行うには空気抵抗による残留Gが問題となる.大型落下施設で採用されていた二重カプセルシステムを室内型の落下装置に採用し,10-3Gレベルの微小重力環境を作ることができた.また,落下直後の落下カプセルに生じる振動を排除することにより,1Gから0Gへスムーズに実験環境を切り替えられる.したがって,エネルギー保存則を利用した実験を行うことが可能となった.落下カプセルの落下距離は約2mで,微小重力継続時間は約0.5秒である.この装置の特性を用いて,これまでに新しい磁化率測定方法を提案してきた.さらに,容器に入れずに(容器の補正を行うことなく)液体の水の磁化率測定を行い,文献値と同様の値を得た.質量非依存を確認し,測定原理の検証も行った.また,弱磁性物質の磁気分離実験を試みた.強磁性物質は工業的にも磁気分離が行われているが,一般に磁石に反応しないと思われている反磁性物質を磁化率の違いによって分離した.分離した回収板上の粒子の位置から粒子の磁化率χが得られ,その値から物質の種類が推定できる.精密分析に先立って固体混合物を物質の種類ごとに分離する固体クロマトグラフィ技術として開発への応用が期待される.



重力可変装置をアトウッドの滑車の原理を用いて製作した.高さ2.4mの位置に自転車の車輪を滑車として取り付け,約2mの落下距離を確保した.そのため,0.5から0.6秒間の地上重力以下の低重力環境を実現した.落下カプセルとおもりの重量を調節することで,0Gから1Gまでの任意の重力を作ることができる.落下前の落下カプセルの固定に微小重力発生装置と同様に電気錠を用いた.落下直後に落下カプセルに振動が発生する.振動は減衰していくものの目的の重力継続時間内に収まらない.しかし,電気錠を使用せずに人の手でおもりを保持して落下させると振動を抑えられる.データ採取時にはこの方法で落下させている.

重力可変装置を用いて重力と相関をもつ現象の実験を行った.まず,毛細管現象の水の高さと重力の関係を調べた.理論によると,水の高さは重力に反比例する.ところが,水は理論式に従わず,エタノールは理論式に従う結果となった.

また,クレーターの直径Dと天体表面加速度geffの間には,Dgeff-0.25の重力スケーリング則が成り立つことが理論から示唆されている.重力スケーリング則を調べる過去の実験結果としては、42年前にNASAのAmes研究所が求めたDgeff-0.165±0.005や,MGLABで得られたDgeff 0.004±0.003が知られている.いずれも理論予測とは大きく異なっている.この装置を用いて様々な重力下におけるクレーター形成を観察した結果,クレーターの直径Dと天体表面加速度geffの関係は,Dgeff -0.246±0.009で与えられ,理論に一致した重力スケーリング則が得られた.



落下カプセル内に真空装置,温度制御装置を組み込むことで,目的天体の表面環境をつくることができる. さらに,重力だけでなく圧力や温度の値を下げることで,火星表面や木星の衛星表面の環境を模擬することができる. 落下カプセルの搭載容積は15000cm3程度と小さく,落下時間が約0.5秒なので大がかりな真空装置や恒温装置は搭載できない. そこで,約0.5秒間だけ真空度や温度を保つ仕組みを考案した.
これらの実験装置と実験結果について報告する.