JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG24] 宇宙・惑星探査の将来計画および関連する機器開発の展望

コンビーナ:吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、笠原 慧(東京大学)、小川 和律(宇宙航空研究開発機構)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)

[PCG24-P07] レゴリススラスタの要件の調査

*武藤 乗仁1オルガス ネチュミジハン1コルドバ アラルコン ホセ ロドリゴ1豊田 和弘1趙 孟佑1 (1.九州工業大学)

キーワード:月、レゴリス、月探査、電気推進

月周回軌道のミッションでは,月の不規則な重力場の影響で低軌道宇宙船の軌道寿命が短いといった問題がある。軌道寿命を延ばすには推進装置が必要である。イオン化されたキセノンやアルゴンなどのガスを噴射して推力を得る電気推進装置は,開発時間が短くミッションが失敗した時のリスクが低いために近年需要が増加しており,小型衛星にも適用されている。電気推進の問題の1つは,電気推進の推進剤として使用されてきたキセノンなどのガス価格の上昇である。ミッションコストの観点からは代替推進剤の導入が望まれる。演者らは,月軌道上で推進剤となる物質を収集して使用するレゴリス推進機を提案している。月面は岩石の破砕物(レゴリス)や風化物の粒子で覆われていて,そのダスト状粒子の直径はμmのオーダーで、これらの塵の粒子が月上空に浮遊していることは米国の月探査機によって観測された。

 検討されているレゴリス推進機は2つのタイプがある。呼吸タイプは,軌道上の浮遊しているダスト粒子を電圧印加グリッドに直接取り込んで加速する。ただし,十分な推力を得るには数十m2クラスの大きなグリッドを使用する必要があるのが難点である。 貯蔵タイプは,軌道上のレゴリス粉塵粒子を収集もしくは推進ユニット内に積載し,推進装置の粒子堆積層表面のマイクロキャビティに電子を照射することで二次電子を発生させる。ダスト粒子は,粒子間の微小空洞(マイクロキャビティ)内の二次電子の反射による強い帯電によって放出される。月面レゴリスの微小空洞のサイズが非常に小さく,継ぎ充てられた粒子の表面電荷は隣接する粒子間で強い反発を引き起こし,粒子はグリッドに移動して加速される。 45μm以下では約10-9 Nの推力しか得られないことが今後の課題である。貯蔵型レゴリス推進システムの粒子貯蔵に要する容積は,粒子半径が大きくなると指数関数的に増加する。粒子半径が5μm以下であれば,各辺を10×10×10cm(= 1Uサイズの小型衛星)の立方体に収めることができる。

 既存研究で使用された速度増分ΔVをレゴリス推進機が実現する場合を想定すると,必要な推進力と衛星仕様が求められる。粒子半径が増加するにつれて重量比が増加する傾向はΔVの想定値が大きいほど顕著である。推進装置が推力を得るのは推進装置が胴体から質量を放つその反作用に他ならない。粒子半径が増加するにつれて,打ち上げられた宇宙船と搭載推進剤がΔVを獲得するのに必要な両者の重量比は増加する傾向にあり、小型衛星で簡単に達成できる重量比として,半径1.0μm以下の粒子を使用することが望ましい。特定のΔVを獲得するのに最低限必要な月軌道周回数は108で、軌道上で粒子貯蔵部を満たす事はかなり時間を要することが判明しており、月面で直接レゴリスダストを積載する方法以外をとるならば、テザーを利用した粒子捕集を検討するなど後の課題となる。また、レゴリスダストが月周回軌道上で収集され消費されている間も,貯蔵スペースの補充を継続的に促進する必要がある。