JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG24] 宇宙・惑星探査の将来計画および関連する機器開発の展望

コンビーナ:吉岡 和夫(東京大学大学院新領域創成科学研究科)、笠原 慧(東京大学)、小川 和律(宇宙航空研究開発機構)、尾崎 光紀(金沢大学理工研究域電子情報学系)

[PCG24-P16] 衛星間電波掩蔽による惑星大気探査

*今村 剛1安藤 紘基2杉本 憲彦4佐川 英夫2高木 征弘2野口 克行8小郷原 一智7山崎 敦9岩田 隆浩9山本 智貴3五十里 哲3川端 陽介3佐野 翔子3藤澤 由紀子4船瀬 龍3森本 睦子4阿部 未来6細野 朝子5 (1.東京大学大学院 新領域創成科学研究科、2.京都産業大学 理学部 宇宙物理・気象学科、3.東京大学 工学系研究科 航空宇宙工学専攻、4.慶應義塾大学 法学部 物理学教室、5.豊島岡女子学園高等学校、6.慶應義塾大学 法学部、7.滋賀県立大学 工学部、8.奈良女子大学 理学部、9.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)

キーワード:電波掩蔽、惑星大気

惑星の気候システムの理解のためには3次元のエネルギーと物質の循環を解明する必要がある。これまで大きな成果を挙げてきた惑星大気の観測手段には、大別して着陸機などによる直接探査と周回機や地上望遠鏡による光学リモートセンシングがある。前者は様々な物理量を精密計測できるものの、観測できる空間領域が限定されるため、大きな空間変化を伴う物理・化学プロセスをとらえることはできない。後者はグローバルな観測が可能であるが、高度分解能がスケールハイト(数km)程度に制限されるため惑星大気の特徴である層構造を十分に解像することができず、また大気力学の把握のために決定的に重要である気圧場を計測できない。このような制限のため、たとえば火星では水やダストの輸送の3次元的構造が未だ把握されておらず、金星では高速大気循環の駆動に関わる角運動量輸送の3次元構造が把握されていない。

我々は次世代の惑星大気研究において衛星間電波掩蔽がブレイクスルーをもたらすと考える。従来の電波掩蔽観測では、惑星探査機が地上局から見て惑星の背後に隠れるときに探査機-地球間の通信電波の周波数や強度が惑星大気の影響で変化することを利用して惑星大気の情報を取り出してきた。この手法は数百mという高い高度分解能で気温や気圧や電波吸収物質を計測できるが、観測地点が探査機と惑星と地球の位置関係によって制限されるため空間構造をとらえられないという欠点があった。そこで我々は、親衛星と小衛星を用いた衛星間の電波掩蔽観測について理学と工学の両面から検討している。この手法により全球的に毎日、数十の観測点において高分解能で物理量の高度分布を取得する。衛星間電波掩蔽は地球では既に実用化しており気象予報や研究に利用されている。

衛星間電波掩蔽により、火星では (1)高鉛直分解能の気温・気圧分布からデータ同化も用いて3次元の風系を初めて導出、(2)境界層を鉛直分解する水蒸気・大気力学の3次元データから大気-地殻水交換と水輸送を把握、(3)外惑星ゆえに従来の電波掩蔽では朝夕に限られていた観測点を全ローカルタイムに拡大し日変化を把握、が可能となる。これは同時期に実施される他手法による観測データの解析のための基盤情報として世界における火星大気研究への重要な貢献ともなるものである。金星では光学観測が困難な硫酸雲の内部および下までを含む3次元大気運動と雲形成物質である硫酸の3次元循環の把握を可能にし、大気大循環とそれがもたらす気候調節の理解につながる。いずれの惑星でも中性大気の観測に加えて電子密度計測による電離層の3次元トモグラフィも可能である。本発表では、理学的価値について論じるとともに、金星を例に進めてきた工学検討についても紹介する。