[PCG24-P18] 惑星大気高分散分光観測のための近赤外分光器ESPRITの開発
キーワード:近赤外分光器、惑星、高分散分光装置
本講演は、我々が開発中の近赤外分光器ESPRIT(Echelle Spectrograph for Planetary Research In Tohoku university)について最新状況を報告する。本装置は、惑星大気や衛星などからの近赤外発光・吸収の観測に最適化した設計となっている。赤外領域での発光・吸収は太陽系天体の大気や噴出ガスの分子種の組成と密度、および温度・風速などの情報が含まれる。特に、高分散分光性能によって、惑星大気からの発光輝線のドップラーシフトから大気の速度分布を、複数輝線の強度比から温度分布を、それぞれ導出可能となる。これらは季節・自転・外界変動への応答などの時間変動を伴うため、また惑星探査機との同期観測等が求められるため、モニタリング観測および柔軟なスポット観測が必要である。ほとんどの赤外高分散分光装置は中大型望遠鏡に搭載され、公募観測に限られる。本装置はT60への装着によって惑星大気の赤外高分散モニタリング観測データを我々にもたらし、国際的にもユニークな惑星大気変動現象を捉えることが期待される。分光モードにおける主要観測対象は木星大気の赤外線発光(H3+/H2オーロラおよび大気光)を掲げているが、金星大気の下部雲層(2.3µm付近)や大気光(1.27µm)、ならびに火星大気の水分子やCO2大気等を含む観測でより広いユーザーによる有効な利用による成果創出も目指して運用していく予定である。東北大はハワイ・マウイ島のハレアカラ観測所(標高3040m)に口径60cm望遠鏡(T60)を擁しており、ESPRITはこれに設置する。将来的には、名大・京大・ハワイ大他と共同開発中の軸外し望遠鏡PLANETS(口径1.8m)への設置も目指している。
ESPRITは、撮像モードとスリット長50 arcsecの分光モードの切替が可能である。スリットビュワーも搭載する予定で観測天体に対するスリット位置やディスク位置決めを精度良く行うことができる。検出器には波長1-4 µmに感度をもつInSb 256x256アレイを採用する。望遠鏡からのF/12入射光にたいして、検出器におけるプレートスケールは0.3 arcsec/pixel(検出器全体の視野は76')とハレアカラ山頂の通常のシーイング(0.6 arcsec)より十分小さい。He冷凍機により光学系全体はラジエーションシールドが90 Kまで冷却され、検出器ユニットは35Kまで冷却される。分光モードには、エシェルグレーティング(31.6 gr/mm, ブレーズ角71度、寸法29mmW x 136mmL x 20mmT)を用いる。木星オーロラH3+発光(3.95 µm)、 H2発光(2.12 µm、2.30 µm)に対して、回折効率が~0.8以上となるようにグレーティングを選択した。この分光器の特徴は、惑星大気観測用に高分散分光性能(R~20,000)を有する点である。1-4 µmで分光を行うため、エシェルグレーティングを駆動機構に取り付け、入射角度を62-80度まで変化させ、1.27、2.12、2.30、3.41、3.95µmの波長帯を1.0×10-3λの波長範囲で観測が行うことができる。特定の波長での観測の際には、この駆動機構はドップラー速度測定に影響がないようにするため、1 arcsec/5 min (木星オーロラ発光層のドップラー速度0.5 km/s に対応)の精密な角度安定度が必要であるが、これはこれまでの実験により実証されている。T60へ装着し、木星極域のH3+(3.95µm)オーロラに東西方向にスリットを当てたとき感度見積もりから、時間分解能は1フレーム約3分ですると、SN比は約15で、約1時間で5-10フレームの木星極域の強度分布を取得することができ、磁気圏と電離圏の擾乱の時間変動やイオン・中性風間の運動量輸送の時間スケールを捕捉するのに十分な時間分解能が見積もられている。
現在までに分光器のエシェル駆動機構やフィルターターレット、スリット-撮像変換機構などの機械系開発、ならびに直径10cm金メッキ鏡をもちいたコリメータ系・カメラ系やグレーティングなどの光学系開発と物品調達はほぼ完了している。今後、冷却熱パスや検出器の冷却ボックスの製造、ならびに検出器読み出しの回路・ソフトウェアを用いて、真空・冷却下において、我々が所有するInSb 256x256検出器アレイ単独での動作試験を行う。この後、本装置へ検出器や検出器読み出しシステムを取り付けることを2020年6月までに予定している。7月からは実験室での統合的な機能・性能試験を開始する予定である。
本発表ではこの開発の現況と観測可能対象の検討について報告する。
ESPRITは、撮像モードとスリット長50 arcsecの分光モードの切替が可能である。スリットビュワーも搭載する予定で観測天体に対するスリット位置やディスク位置決めを精度良く行うことができる。検出器には波長1-4 µmに感度をもつInSb 256x256アレイを採用する。望遠鏡からのF/12入射光にたいして、検出器におけるプレートスケールは0.3 arcsec/pixel(検出器全体の視野は76')とハレアカラ山頂の通常のシーイング(0.6 arcsec)より十分小さい。He冷凍機により光学系全体はラジエーションシールドが90 Kまで冷却され、検出器ユニットは35Kまで冷却される。分光モードには、エシェルグレーティング(31.6 gr/mm, ブレーズ角71度、寸法29mmW x 136mmL x 20mmT)を用いる。木星オーロラH3+発光(3.95 µm)、 H2発光(2.12 µm、2.30 µm)に対して、回折効率が~0.8以上となるようにグレーティングを選択した。この分光器の特徴は、惑星大気観測用に高分散分光性能(R~20,000)を有する点である。1-4 µmで分光を行うため、エシェルグレーティングを駆動機構に取り付け、入射角度を62-80度まで変化させ、1.27、2.12、2.30、3.41、3.95µmの波長帯を1.0×10-3λの波長範囲で観測が行うことができる。特定の波長での観測の際には、この駆動機構はドップラー速度測定に影響がないようにするため、1 arcsec/5 min (木星オーロラ発光層のドップラー速度0.5 km/s に対応)の精密な角度安定度が必要であるが、これはこれまでの実験により実証されている。T60へ装着し、木星極域のH3+(3.95µm)オーロラに東西方向にスリットを当てたとき感度見積もりから、時間分解能は1フレーム約3分ですると、SN比は約15で、約1時間で5-10フレームの木星極域の強度分布を取得することができ、磁気圏と電離圏の擾乱の時間変動やイオン・中性風間の運動量輸送の時間スケールを捕捉するのに十分な時間分解能が見積もられている。
現在までに分光器のエシェル駆動機構やフィルターターレット、スリット-撮像変換機構などの機械系開発、ならびに直径10cm金メッキ鏡をもちいたコリメータ系・カメラ系やグレーティングなどの光学系開発と物品調達はほぼ完了している。今後、冷却熱パスや検出器の冷却ボックスの製造、ならびに検出器読み出しの回路・ソフトウェアを用いて、真空・冷却下において、我々が所有するInSb 256x256検出器アレイ単独での動作試験を行う。この後、本装置へ検出器や検出器読み出しシステムを取り付けることを2020年6月までに予定している。7月からは実験室での統合的な機能・性能試験を開始する予定である。
本発表ではこの開発の現況と観測可能対象の検討について報告する。