JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-CG 宇宙惑星科学複合領域・一般

[P-CG27] 宇宙における物質の形成と進化

コンビーナ:野村 英子(国立天文台 科学研究部)、大坪 貴文(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、三浦 均(名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科)、瀧川 晶(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)

[PCG27-09] 低質量原始星天体の原始星円盤形成領域における化学的構造

*大屋 瑶子1 (1.東京大学)

キーワード:原始星円盤、星間物質、低質量原始星

原始星を取り巻く原始星円盤/原始惑星系円盤は、惑星系形成の母体であり、その形成過程は物理的にも化学的にも興味がもたれる。若い (Class 0/I) 低質量原始星天体は、1000 auスケールのエンベロープガスに化学的多様性があることが知られている。とくに特徴的なものが、hot corino chemistryとwarm carbon-chain chemistry (WCCC) である。Hot corino天体には複雑な飽和有機分子 (ギ酸メチルなど) が豊富に含まれるのに対し、WCCC天体には不飽和な炭素鎖関連分子 (C4Hなど) の分子輝線が多く見られる。こうした化学的多様性がどのように、またどの程度、円盤形成領域に持ち込まれるのかは、原始星形成に伴う物質進化を理解する上で重要である。
我々はALMAを用いて、6つの若い低質量原始星天体について、円盤/エンベロープ構造の物理的・化学的構造の観測研究を実施してきた。その結果、1000 auスケールのガスで知られていた化学的多様性は、100 auスケールの円盤形成領域まで確かに持ち込まれていることが明らかになった。さらに、一つの天体内でも、ガスの化学組成がエンベロープガスから円盤にかけて急激に変化する様子が見られた。
このような円盤形成領域での化学的多様性は、ALMA観測の以前には予期されていなかった。とくに興味深いのは、hot corino化学とWCCCの両方を併せ持つhybrid天体 (L483, B335) の存在である。これらの天体では、広がったエンベロープガスは炭素鎖分子に富むWCCCの特徴を示すのに対し、その内側にある円盤形成領域は飽和有機分子に富むhot corinoの特徴が見られた。この観測結果は、収縮する原始星コアでの化学進化のモデルとも一致する。すなわち、原始星近傍の暖かい領域 (>100 K) では星間塵から飽和有機分子が蒸発してhot corinoの特徴を示すのに対し、より外側の温度の低い領域 (>30 K) では、WCCCを引き起こすメタン分子が蒸発するという描像である。このことから、hybrid天体では、星形成の初期に飽和有機分子とメタン分子の両方が星間塵に吸着した、一般的なケースであると考えられる。一方、hot corino天体やWCCC天体は、星間塵表面の組成が飽和有機分子かメタン分子のいずれかに偏った、極端なケースであるとみなせる。円盤形成領域における化学的多様性の起源とその進化を理解することは、低質量原始星天体の形成に伴う化学進化、ひいては、我々の住む太陽系がもつ物質的起源に迫る端緒を与えることが期待される。