[PEM11-09] かぐや衛星軌道上月の極域で観測された1-16Hzのホイスラ波のエネルギー源の探索
キーワード:ホイスラ波、月、かぐや、太陽風、ELF、広帯域
地球のような大規模な磁場や濃い大気を持たない月面は太陽風や地球磁気圏由来のプラズマにさらされている。月面に直接ぶつかったイオンや電子はほとんど吸収されるが、ごく一部のプロトンが直接散乱されたり、いったん中性粒子として月面から放出されたのちに電荷交換によって反射プロトンのようにふるまったりすることがわかっている。また、月表面の強い固有磁場に入射したイオンはローレンツ力を受けて反射する一方、強い固有磁場周辺で磁束の収束する領域に入射した電子はミラー反射を受ける。固有磁場に侵入する際のイオンと電子の侵入の深さの違いによって生じる電場はさらに電子を加速させる。
このように月面及びその固有磁場によって散乱・反射を受けたプラズマは、もともとの周辺プラズマに対しビームやリングビームのような役割を果たし、さまざまな波動を励起する。励起されるさまざまな波動と粒子との対応はHarada and Halekas(2016)に詳しくまとめられている。
低周波帯では、反射プロトンと太陽風中の磁気流体波のサイクロトロン共鳴によって起きる100秒周期のULF波、反射プロトンとホイスラ波のサイクロトロン共鳴によって起きる1Hz近辺のULF-ELF波、及び反射電子によって励起される0.1-10 HzのELF波、の3つが特に強い。この状況は、地球前面衝撃波による反射粒子と上流の波の関係と相似である。ジャイロ半径の小さい反射電子の立てる波は、観測衛星と月面の強い固有磁場が磁力線でつながっているときに限って観測される一方、反射プロトンによるULF波はプロトンのジャイロ半径の大きさや上流まで行って波を励起する性質を反映して、磁力線が月面に接触しているかどうかにかかわらず観測されている。
しかしこのいずれでもない1-16HzのELF波がかぐや衛星によって発見された。電子起源の波のように周波数帯が広く、プロトン起源の波のように磁力線の月面接触に無関係に観測されている。伝搬方向は磁力線にほぼ沿っており、偏波方向が右回りであることからホイスラ波と考えられる。背景磁場が太陽風の流れに垂直なときでも1-16Hzで検出され、パワーは上述の反射プロトン起源の1Hz波や電子起源の0.1-10HzのELF波と比べ1-2桁弱かった。この波が観測された時の太陽風はプラズマ密度が高く、したがってフラックスも高かった。波の観測された場所は主に極域で、固有磁場の弱い領域の上空であった。入射フラックスが高いことは、反射粒子あるいはスパッタリングなどで月面から放出される粒子が多いことが期待されるが、強い磁気異常による反射粒子の立てるULFとは性質が異なることから、異なるエネルギー源と別の発生機構を考える必要がある。この波と同時に現れる特徴的なプラズマ粒子は今のところまだ見つかっておらず、ピッチ角分布に特徴的な性質がないかさらに調査する必要がある。
References
Harada, Y., and J. S. Halekas, Chapter 18: Upstream waves and particles at the Moon, in "Low-Frequency Waves in Space Plasmas", 2016, pp. 307-322, American Geophysical Union, doi: 10.1002/9781119055006.
このように月面及びその固有磁場によって散乱・反射を受けたプラズマは、もともとの周辺プラズマに対しビームやリングビームのような役割を果たし、さまざまな波動を励起する。励起されるさまざまな波動と粒子との対応はHarada and Halekas(2016)に詳しくまとめられている。
低周波帯では、反射プロトンと太陽風中の磁気流体波のサイクロトロン共鳴によって起きる100秒周期のULF波、反射プロトンとホイスラ波のサイクロトロン共鳴によって起きる1Hz近辺のULF-ELF波、及び反射電子によって励起される0.1-10 HzのELF波、の3つが特に強い。この状況は、地球前面衝撃波による反射粒子と上流の波の関係と相似である。ジャイロ半径の小さい反射電子の立てる波は、観測衛星と月面の強い固有磁場が磁力線でつながっているときに限って観測される一方、反射プロトンによるULF波はプロトンのジャイロ半径の大きさや上流まで行って波を励起する性質を反映して、磁力線が月面に接触しているかどうかにかかわらず観測されている。
しかしこのいずれでもない1-16HzのELF波がかぐや衛星によって発見された。電子起源の波のように周波数帯が広く、プロトン起源の波のように磁力線の月面接触に無関係に観測されている。伝搬方向は磁力線にほぼ沿っており、偏波方向が右回りであることからホイスラ波と考えられる。背景磁場が太陽風の流れに垂直なときでも1-16Hzで検出され、パワーは上述の反射プロトン起源の1Hz波や電子起源の0.1-10HzのELF波と比べ1-2桁弱かった。この波が観測された時の太陽風はプラズマ密度が高く、したがってフラックスも高かった。波の観測された場所は主に極域で、固有磁場の弱い領域の上空であった。入射フラックスが高いことは、反射粒子あるいはスパッタリングなどで月面から放出される粒子が多いことが期待されるが、強い磁気異常による反射粒子の立てるULFとは性質が異なることから、異なるエネルギー源と別の発生機構を考える必要がある。この波と同時に現れる特徴的なプラズマ粒子は今のところまだ見つかっておらず、ピッチ角分布に特徴的な性質がないかさらに調査する必要がある。
References
Harada, Y., and J. S. Halekas, Chapter 18: Upstream waves and particles at the Moon, in "Low-Frequency Waves in Space Plasmas", 2016, pp. 307-322, American Geophysical Union, doi: 10.1002/9781119055006.