JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM12] 大気圏ー電離圏結合

コンビーナ:Huixin Liu(九州大学理学研究院地球惑星科学専攻 九州大学宙空環境研究センター)、大塚 雄一(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、Yue Deng(University of Texas at Arlington)、Loren Chang(Institute of Space Science, National Central University)

[PEM12-15] しらせ搭載全天630nmイメージャーによるオーロラ・大気光観測の初期結果

*坂野井 健1八木 直志1穂積 裕太2津田 卓雄2青木 猛2齊藤 昭則3直井 隆浩5西山 尚典4江尻 省4 (1.東北大学大学院理学研究科惑星プラズマ・大気研究センター、2.電気通信大学大学院情報理工学研究科、3.京都大学大学院理学研究科、4.国立極地研究所、5.情報通信研究機構)

キーワード:オーロラ、大気光、しらせ、南極、初期成果報告

地上光学観測は、特定の地点から継続観測できる利点から、オーロラや大気光の時間・空間変動解明に活用されてきた。南半球では、北半球ほど密ではないものの、沿岸域や南極大陸上で全天カメラネットワーク観測が行われている。しかし、昭和基地の東側からオーストラリア南側の広範囲の領域は、オーロラ帯が海洋上に位置するために観測の空白域となっている。海洋上の観測によりこの空白域を解消することは、オーロラ研究にとって意義があることに加え、南北半球で異なる中間圏での高度・経度変動を解明するために重要である。我々は、この海洋上の観測空白域において、オーロラと大気光を観測する技術を確立することを目的とし、南極観測船しらせに搭載する全天イメージャー(しらせASI)を開発した。南極観測船しらせは、日本を毎年11月に出航し同年12月末に昭和基地に到着した後、翌年2月初旬に昭和基地を出発して、オーストラリア・シドニーを経由して4月に日本に帰港する。特に復路の2月から3月にかけて、しらせは南極大陸沿岸を東方に移動し、オーストラリア南方でオーロラ帯の直下に位置する。この時期は薄明の無い夜間が3時間以上あり、貴重なオーロラや大気光観測データの取得が期待される。本研究では、高感度・低ノイズ特性をもつ冷却CMOS全天カメラにジャイロと駆動モータによる3軸姿勢安定ジンバル機構を組み合わせ、海洋上の船舶の揺れをキャンセルして長時間露光出来る点がユニークである。さらに、しらせは、日本とオーストラリア間の往路・復路ともに中緯度〜赤道域を通過するため、この間における大気光観測から、プラズマバブルやMSTIDなどの電離圏現象を観測することが期待される。
我々が開発を行ったしらせASIは、電子冷却CMOSカメラ(ZWO ASI183MM Pro)に630nm単色フィルター(Andover狭帯域干渉フィルター、中心波長630 nm、FWHM 4.4 nm)と対物魚眼レンズ(フジノン FE185C086HA、焦点距離2.7 mm、F値1.8)を組み合わせた、小型軽量の直焦点光学系である。このカメラを3軸制御ジンバル(DJI Ronin-S)に取り付けた。このカメラとジンバルは、防水・防塩対策が施された観測箱内に格納され、しらせ06甲板上に設置した。観測の際には、データは観測箱内部のミニPC(LIVA Q2)に一旦記録され、翌日の日中に第一観測室内のノートPCを介してNASに転送される。このNASには、しらせの出航から帰港までの観測データが全て蓄積される。第一観測室内のノートPCはGPS信号から現在位置を計測し、日の出・日の入り時刻を毎日計算して最適な観測開始と終了時刻を決定する。露出時間と撮像インターバルは、それぞれ19 sと20 sとしたが、データ解析時に観測対象の明るさによって最大で120s間のデータを重ね合わせる予定である。観測データはしらせが帰港する4月に回収するが、観測器の健全動作を確認するために、1日1回10枚程度のサムネイル全天画像と温度・湿度等のハウスキーピングデータがメールにより日本へ送信される。甲板上の観測箱の温度調整のために、箱内が0度C以下になった際にヒーター電源がONになる。加えて、赤道直下における温度上昇に対応するため、エアクーラーを第一観測室内に設置し、約20m長の断熱ホースにより甲板上の観測箱内に冷却乾燥空気を循環させる。
開発経過としては、2019年6月26、27日に国立極地研究所積分球を用いた校正実験を行なった結果から、ゲイン400、露出時間120 sで34 R から3.0 kRのダイナミックレンジを持ち、分解能は0.73 R/bitであることを確認した。また、2019年6月13日に東北大学蔵王観測所(北緯38.1 deg、東経140.5 deg)で630.0 nm大気光の試験観測を行い、120 s間積分した全天画像から振幅43 Rの南西方向伝播するMSTIDの観測に成功した。2019年9月3日に、しらせASIシステムを06甲板上ならびに第一観測室へ設置した。2019年10月11日の試験航海時に海洋上で取得されたデータ解析から、船舶が8 deg揺れた際に、ジンバルによりカメラ視野の揺れを0.5 degにまで減衰させることがわかった。この0.5 degの揺れを 630 nm が発光する高度250 kmに投影すると水平距離2 kmに対応し、大気重力波の空間分解能要求を十分に満たす性能を有することが分かった。
しらせASIは、2019年11月12日の出航以降順調に期待どおりのデータを連続取得している。データの回収および詳細な解析は2020年4月の帰港以降に行う予定である。本講演ではそのデータ解析の初期成果報告を行う。