JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] Plasma Theory and Simulation

コンビーナ:銭谷 誠司(神戸大学)、Fan Guo(Los Alamos National Laboratory)、梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)

[PEM15-02] 無衝突垂直衝撃波遷移層における上流パラメータに依存したAlfven Ion Cyclotron不安定とWeibel不安定の関係性

*西貝 拓朗1天野 孝伸1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:無衝突垂直衝撃波、Alfven Ion Cyclotron不安定、Weibel不安定

宇宙物理学の最も重要な課題の一つである非熱的高エネルギー粒子の生成には、一次フェルミ加速に代表されるように、プラズマ中の無衝突衝撃波が大きく関与していると考えられている。そのため無衝突衝撃波は、観測的、数値的、および理論的に広範囲に研究されてきた。本研究では無衝突衝撃波の遷移層領域におけるプラズマ不安定性を調べる。無衝突衝撃波において、アルフベンマッハ数が十分大きければ、衝撃波上流から下流に流入するイオンの一部が衝撃波面のポテンシャル障壁を超えられず上流に反射される。遷移層領域では、この反射イオンと上流からのイオンの2つのイオン種間の速度差により引き起こされる様々な不安定性が、ショックにおける散逸メカニズムに重要な役割を果たすとされている。

遷移層で発生する不安定性の中でも低周波、長波長領域のものは飽和レベルが大きく、衝撃波全体の構造に影響を与えるが、その中でも特に本研究で着目するのは、反射イオンがもたらす実効的な温度異方性を自由エネルギーとして成長するAlfven Ion Cyclotron(AIC)不安定性、Weibel不安定性の2種である。AIC不安定はリップルと呼ばれる衝撃波面が波打つような構造を作り出すことが知られている(Winske & Quest, 1988)。また最近では、超新星残骸で見られるようなマッハ数が大きい衝撃波の場合には、Weibel不安定が励起され、外部磁場の数十倍にも及ぶ摂動磁場が高密度の電流フィラメントとともに成長、その結果として一定の条件下では磁気リコネクションが誘発され、電子加速が起こることがラージスケールPICシミュレーションから確認された (Matsumoto et al., 2015)。この電子加速はフェルミ加速において必要となるpre-accelerationとして、重要な役割を果たす可能性がある。定性的にはWeibel不安定性は、マッハ数が高い(磁場が弱い)衝撃波において支配的になり,そうでない場合にはAICが支配的になると考えられているものの、両者の関係性は理解されていない。

本研究では無衝突衝撃波の遷移層を理想化したモデルとして、上流静止系で、空間一様性を仮定し、上流電子、上流イオン、反射イオンの3粒子種成分からなる系を考える。ここで上流電子・上流イオンの初期速度分布としてはマクスウェル分布を,反射イオンについては磁力線垂直方向にリング状に分布する速度分布(リング分布)を仮定した。この条件下において、コールドプラズマ近似で外部磁場平行方向に波数ベクトルを持つ波動について線形解析を行ったところ、AIC不安定とWeibel不安定は単一の分散関係の異なる極限下で現れること、つまりAIC不安定が外部磁場ゼロの極限(アルフベンマッハ数無限大の極限)でWeibel不安定に変化することがわかった。また二次元PICシミュレーションを行った結果についても、アルフベンマッハ数をバウショックに典型的な大きさから超新星残骸で見られるような大きさまで変化させていくとAIC不安定からWeibel不安定に成長モードの構造が遷移していく様子が確認された。本発表ではアルフベンマッハ数や電子・イオンの質量比といった上流の物理パラメータに対する2つの不安定性間の遷移について調べた結果を報告する。