JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] Plasma Theory and Simulation

コンビーナ:銭谷 誠司(神戸大学)、Fan Guo(Los Alamos National Laboratory)、梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)

[PEM15-03] フォボス夜側表面における帯電現象のPICシミュレーション解析

*田邉 正樹1寺田 直樹1三宅 洋平2臼井 英之2 (1.東北大学大学院理学研究科、2.神戸大学大学院システム情報学研究科)

キーワード:帯電、フォボス、プラズマウェイク、両極性拡散、自己相似解、PICシミュレーション

太陽風プラズマの衝突による火星衛星フォボス表面の帯電現象を数値シミュレーションによって再現し,帯電のプロセスとその原因を考察した.

大気の存在しない小天体では,その表面に直接衝突する太陽風によって表層物質の変成(宇宙風化作用)が起こる.火星衛星フォボスにおけるこの作用は,次期火星衛星探査ミッションMMXにおいて表層のリモートセンシング観測やサンプル分析からフォボスの起源を明らかにする際に重要となる.一方超音速のプラズマ流である太陽風が小天体へ衝突すると,天体表面とその周囲に特異なプラズマ構造が生じることが知られている.その内,宇宙風化作用への寄与が大きいと考えられる現象の一つとして,表面の帯電現象が挙げられる.

天体表面では,太陽風起源の電子電流やイオン電流に加え,紫外線により表面から放出される光電子電流,電子の衝突により生じる二次電子電流など複数の電流が存在する.定常状態では表面の電位がこれらの電流のバランスを保つ方向へと変化し,結果として周辺電位と天体表面の間に電位差が生じる.またこのような電位を決定づけるプロセスは昼側と夜側で大きく異なることが知られており,私たちは特に夜側に着目して計算結果の解析を進めた.昼側では太陽風と光電子のバランスにより電位が決定する一方で,夜側では,太陽風プラズマが昼側でほとんど吸収されてしまうために,ウェイクと呼ばれる密度の薄い領域が裏側に伸びる方向へと生じている.ウェイク領域と周辺プラズマの間の密度勾配は,プラズマの両極性拡散を起こし,その際に発生する両極性電場が電子やイオン加速させる.夜側における電位は解析的な計算により,およそマイナス数百ボルト程度であると考えられているが,電磁場構造と電子・イオン分布の自己無撞着な理解は得られていない.そこで私たちは小天体表面の静電ポテンシャル分布を自己無撞着に解ける数値シミュレーションコード(PICコード)を用いて解析した

 本研究では,フォボスのサイズは現実の1/11サイズである1 kmとし, 太陽風速度とイオン電子それぞれの熱速度の比,さらにフォボスサイズに対するイオンと電子のジャイロ半径の比を現実と揃え,南向き磁場の下で2次元計算を行った.得られた結果を先行研究と同じ手法による解析的計算と比較すると,夜側の極に近い浅い領域においては両者の計算結果が概ね一致していたが,夜側深部に近づくほど計算のズレが顕著に表れていった.シミュレーション計算による密度構造の解析から,夜側においては両極性拡散に加え,密度がほぼゼロの真空領域や,イオンの密度が電子の密度より高い非中性領域の存在が確認され,それらの部分の影響が解析解とのズレを生じさせていることがわかった.

 また太陽風条件としては,通常時と太陽風擾乱発生時を想定した2つの計算を行った.先行研究による計算ではCME発生時の表面ポテンシャルは通常時よりも大きいと結論づけられていたが,太陽風速度を2倍にしたPICシミュレーションの結果では逆に通常時より帯電が小さくなった.

これらの結果は,火星から流出しフォボスに衝突するイオンのフラックスを求める際に重要となる.更に表面の帯電状態は,探査ミッションにおける着陸時の探査機の故障に対するリスク評価への応用も期待できる