JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM15] Plasma Theory and Simulation

コンビーナ:銭谷 誠司(神戸大学)、Fan Guo(Los Alamos National Laboratory)、梅田 隆行(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、天野 孝伸(東京大学 地球惑星科学専攻)、成行 泰裕(富山大学学術研究部教育学系)

[PEM15-12] 超巨大Kerrブラックホールの内部プラズマ状態と重力波源の問題

*大家 寛1 (1.東北大学理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:ブラックホールバイナリ―、事象限界、プラズマ分布限界

1.序  本研究の動機はこれまでデカメター電波観測によって明らかにされてきた天の川銀河中心におけるSgrAが質量227万太陽質量および194万太陽質量をもち2200秒近くで公転する2重星ブラックホールであるという件にある(1)即ちこの状態は従来のブラックホール・バイナリ―に対する重力波発生理論に従う限り数時間で公転エネルギーを重力波として放出して、状態そのものが存在し得ないと結論される。本論はこの問題に対して重力波源という視点では従来の研究が立ち入っていない超巨大Kerrブラックホール(BH)の内部のプラズマ分布モデルを検討し、BHが重力波源となり得ない状況があることを明らかにした。
2. Kerr ブラックホールに於ける事象限界(Event Horizon :EH)と物質分布限界(ML)
従来のブラックホールからの重力波発生の理論背景はEHとMLの差、従ってその間に生ずる内部空間を議論の対象にしていない。この点に対し本研究はSpinを伴うことを本質とするKerr時空ではKerr時空を特徴づける回転パラメタ― a=J/Mc (J:BHの角運動量、M:BH質量,c: 光速度)が保持される限りMLは限界まで縮小しうるモデルを明らかにした。
3.ML縮小のメカニズムと設定されるモデル
MLが縮小しても同じ角運動量Jを維持するには回転速度の増加が必須になるが、縮小された領域内の物質は光速度に迫る速さをもちLorentz変換効果で運動量が大幅に上がる。本論ではプラズマ数密度Nに対し少量Nb(b:混合比)成分の速度((1-E)^(1/2))c :E<<1をもつ回転成分と多量N(1-b)で、速度zc (z:速度比)を中心とする球殻状速度分布関数を持ち、圧力平衡に関わる2成分プラズマを考慮した。その上で、Kerr時空の自転周期より速いため生ずる遠心力が、重力とプラズマ圧と平衡する状態を、局所Minkowsky時空で評価する形で物質分布を求めた。
4. 構築されたモデルにおける物質分布の例
本論で最も関心のある巨大Kerr BHに対し質量200万太陽質量の場合の例では事象限界半径 Re=2.97x10^11cm,となり、 ML=Reを仮にとると密度Lo=3.66x10^4 g/cc プラズマス数密度2.29x10^28 /cc で平均イオン間距離 L=3.52x10^(-10) cmとなるが、BH内部のML凝縮モデルでは、ML=(1/6)Reとなる例の場合、Kerr BH内部プラズマ分布はMLに接し厚さ0.15MLをもつ球殻状に大部分のプラズマが集合し、密度Lo=8.16x10^9 g/cc プラズマス数密度5.10x10^33 /cc となり、平均イオン間距離 L=5.81x10^(-12) cmとなる。この場合のイオン間距離はイオンの量子論的広がり約10^(-13) cm の60倍程度と高密度プラズマの限界に近く圧縮されてくる。
5. 重力波伝搬とEH会合
EH内部は従ってEH即MLとする概念を大きく破り、99.5%までは空洞でありうる。ML以内の物質の加速運動によって発生する重力波は従って、EHとML間に生じているKerr BH内部時空を伝搬することになる。本論では、この重力波がEHに到来するとき進行速度が0となることが示され、従って巨大Kerr BHからは重力波が出ないという結論となる。
6. 検討
BHから重力波が発生するという概念は学界の常識的規範になっていて、特にLIGOによる度重なる重力波観測の波源の大部分がブラックホール・バイナリーと報告されていて、本研究結果と真っ向から対立する。しかし、LIGOチームが採用する重力波源の理論は本論で言うEHとMLが混然としていて重力波はEHを越えて伝搬することを前提に立てられている。別に、近年、ML>EHの場合に相当するUltra Compact Starの存在も提言されていて、LIGOの結論するBH バイナリーはこれらの天体の可能性も残されている。LIGOの重力波観測結果で、際立っているのは最初の重力波検出からすでに5年目に入った現在、実質3年間の観測期間に約20件を越すBH バイナリー会合が報告されてきているが、全て100太陽質量以下の星質量BHで、超巨大BHが重力波を放射している場合に観測しうると推論される観測件数3~30件と異なり、超巨大BHの会合の報告は皆無となっている。
1)https://www.terrapub.co.jp/e-library/9784887041714/index.html