JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-EM 太陽地球系科学・宇宙電磁気学・宇宙環境

[P-EM18] 太陽地球系結合過程の研究基盤形成

コンビーナ:山本 衛(京都大学生存圏研究所)、小川 泰信(国立極地研究所)、野澤 悟徳(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、吉川 顕正(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

[PEM18-P02] TTLにおけるKH不安定に伴うオゾンの鉛直混合の観測

*橋野 桃子1橋口 浩之1Wilson Richard2荻野 慎也3鈴木 順子3 (1.京都大学生存圏研究所、2.LATMOS/IPSL, Sorbonne Université、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:熱帯対流圏界層、成層圏-対流圏間物質交換、ケルビン・ヘルムホルツ不安定

熱帯対流圏界層 (Tropical Tropopause Layer; 以下TTL) は熱帯域に特有の対流圏と成層圏の遷移領域であり,TTLにおける物理・化学プロセスは成層圏-対流圏間物質交換 (Stratosphere-Troposphere Exchange; 以下STE) に影響するとして重要視されている.しかしTTLを直接観測した例は少なく,また過去の研究の多くは大規模波動に着目していることから,TTLやSTEに関連するより小規模なプロセスについては未だ未解明な点が多い.そこで本研究ではTTL領域付近における小規模な乱流やそれに伴う物質輸送について,STRATEOLE 2 (スーパープレッシャー気球を用いたTTL・下部成層圏観測プロジェクト) に同期して実施した観測キャンペーンデータを用いて解析した.特に,先行研究でTTLにおける発生が示されてきたKelvin-Helmholtz 不安定がオゾンの鉛直分布に影響するかを調べた.

使用したのは2019年11月21日~12月6日にインドネシア西スマトラ赤道大気観測所から放球されたオゾン・GPSゾンデによる観測データと,同時期の赤道大気レーダー (EAR) による観測データである.

図(a) はEARデータから算出した観測期間の乱流強度を示し,×印は最低気温で定義された圏界面 (Cold Point Tropopause; 以下CPT) である.12/2~12/3に見られるCPTジャンプと強い乱流が伴って起きるという特徴は過去の観測と同様であり赤道ケルビン波の破砕を示唆する.図 (b), (c) はCPTジャンプ前後の4回のゾンデ観測のプロファイルであり,(b)は東西風 (赤) と温位(緑) の平均からの偏差,(c) は鉛直ウィンドシアー (赤),オゾン混合比の偏差 (緑),リチャードソン数 (青) (青色の縦線はRi=0.25) をそれぞれ示す. (b) に見られる東西風場と温度場の波の位相のずれは赤道ケルビン波のそれと似ており,振幅増大しながら下方へ伝播している.東西風偏差が負から正へ急激に変化する,振幅が大きい範囲 (11/29の高度17.5-18 km, 時間とともに下方へ推移) で (c) の鉛直ウィンドシアーも大きく,リチャードソン数はこの範囲でKH不安定条件(Ri < 0.25) を常には満たさないがシアーやブラントバイサラ数 (図省略) の特徴は先行研究と一致しKH波の存在を示唆するものである.そしてこの範囲においてオゾン量の増加 (高度上昇方向を正とする) が見られる.すなわち、赤道ケルビン波の破砕前後の東西風の振幅増大による強い鉛直シアーが引き起こすKH波がオゾンを鉛直混合させる可能性を示す結果を直接観測から得ることができた.今後の課題としてオゾン量の変動に大気の混合以外の要素が関係していないか調べる.