[PPS01-P08] ひさき衛星観測との比較を目指した木星内部磁気圏プラズマの動径方向拡散モデルの開発
キーワード:木星磁気圏、ひさき衛星、イオプラズマトーラス
惑星分光観測衛星ひさきは衛星イオの火山活動の変化に伴う木星内部磁気圏でのプラズマ増大・減少を捉えた。本研究は、木星内部磁気圏の複数のイオンおよび電子間の相互作用と動径方向輸送を理解することを目的とし、プラズマの質量及びエネルギーの収支と時間変化の追跡が可能な拡散モデルを開発した。モデルとひさき衛星の観測と比較により、観測に整合的な時間変動が確認された。
木星第一衛星イオには活発な火山活動が確認されており、磁気圏のプラズマは質量の約9割がイオの大気から供給される[Hill, Dessler, and Goertz, 1983]。主に硫黄と酸素から成る重イオンプラズマは木星と共回転することでイオの公転軌道に沿ってドーナツ状に分布し、イオプラズマトーラス(IPT)と呼ばれている。プラズマは木星の自転角運動量を得ながら動径方向に数十日の時間スケールで輸送される。この輸送は、遠心力による交換型不安定により駆動されていると考えられている。輸送の過程で、重イオンプラズマは化学的な相互作用によって組成比、エネルギーが変化する[Delamere & Bagenal, 2003]。したがって内部磁気圏におけるプラズマの質量とエネルギーの収支を知ることは、磁気圏のマクロな物理現象を理解する上で重要な課題である。
定常状態の内部磁気圏プラズマの動径方向分布モデルはVoyager1,Voyager2,Cassini探査機の観測結果に基づいて開発されている[Delamere et al., 2005]。しかし、これまでの探査機はIPTの空間分布を長期観測できなかったため、動径方向分布の時間変動を追跡できるモデルの研究報告はない。惑星分光観測衛星ひさきは惑星観測専用の宇宙望遠鏡として2013年より連続運用されており、木星内部磁気圏の長期観測が可能である。実際に2015年1月下旬から4月上旬の約二か月間にわたって、イオからのプラズマ供給の増加に伴うIPTの空間分布の変化が捉えられている[Tsuchiya et al., 2018; Yoshioka et al., 2018]。
本研究ではイオ起源の主要な重イオン(O+,O2+,O3+,S+,S2+,S3+,S4+)の質量およびエネルギーの収支と動径方向輸送の時間発展を追跡可能なモデルをFokker-Planck方程式に基づき開発した。方程式系はDelamere et al.(2005)が開発した定常状態の磁気圏プラズマの質量およびエネルギー輸送モデルを基に、Forward Time Central Space(FTCS)法により差分化した。動径方向のグリッド間隔を指数関数的に設定することで、広い動径範囲で適切にCourant条件を満たしながらより少ない時間で動径方向に詳細な計算結果を得ることが可能となった。内側境界条件としてイオの公転軌道である5.9RJで密度および温度の空間微分を0で与え、外側境界条件は30RJ近傍で密度、温度ともにひさき観測結果の外挿値で固定した。イオン、電子間の化学的な相互作用はDelamere & Bagenal (2003)で用いられている電荷交換、電子衝突電離、電子再結合、クーロン相互作用を考慮し、電子衝突励起による体積放射率はCHIANTI原子データベースを利用して算出した。なお、各イオン種と熱的電子の温度、密度の初期値は、イオ火山活動が静穏であった2013年11月のひさき衛星観測結果[Yoshioka et al., 2018]を用いた。中性原子(O,S)密度の空間分布はひさき観測結果を初期値として与えたほか、単位時間・単位体積あたりに磁気圏に流入する中性原子の総数と酸素・硫黄原子の組成比をパラメータとした。
この設定の下で本モデルの妥当性を検証するため、6-10RJの領域における各イオン種と電子の定常状態の温度、密度をひさき衛星の観測結果と比較した。イオン密度は高価数ほど観測値より少なく計算され、S+を除くイオン温度は観測同様100eV程度で安定し、S+は200eV程度と観測より高温となった。
さらに、中性原子の酸素・硫黄組成比と流入量、拡散係数をパラメータとし、ひさき観測に最も合致する値を求めた。この結果、酸素・硫黄比が2.0、流入量、拡散係数はイオ近傍でそれぞれ5.0×10-4 (/m3/s)、4.2×10-7 (/sec)と見積もられた。この結果はSO2を主要大気組成とするイオプラズマにおいて整合的である。また中性原子流入量の変動を再現することで、イオ火山活動活発期のIPT発光変動との比較を行った。今後、得られた拡散係数についてSiscoe&Summers(1981)の数値解析に基づく拡散係数との比較を行うことで、定量的な検証を目指す。本発表では作成したモデルの詳細なアップデートおよび各パラメータの定量的な検証結果とひさき観測結果との対応ついて述べる。
木星第一衛星イオには活発な火山活動が確認されており、磁気圏のプラズマは質量の約9割がイオの大気から供給される[Hill, Dessler, and Goertz, 1983]。主に硫黄と酸素から成る重イオンプラズマは木星と共回転することでイオの公転軌道に沿ってドーナツ状に分布し、イオプラズマトーラス(IPT)と呼ばれている。プラズマは木星の自転角運動量を得ながら動径方向に数十日の時間スケールで輸送される。この輸送は、遠心力による交換型不安定により駆動されていると考えられている。輸送の過程で、重イオンプラズマは化学的な相互作用によって組成比、エネルギーが変化する[Delamere & Bagenal, 2003]。したがって内部磁気圏におけるプラズマの質量とエネルギーの収支を知ることは、磁気圏のマクロな物理現象を理解する上で重要な課題である。
定常状態の内部磁気圏プラズマの動径方向分布モデルはVoyager1,Voyager2,Cassini探査機の観測結果に基づいて開発されている[Delamere et al., 2005]。しかし、これまでの探査機はIPTの空間分布を長期観測できなかったため、動径方向分布の時間変動を追跡できるモデルの研究報告はない。惑星分光観測衛星ひさきは惑星観測専用の宇宙望遠鏡として2013年より連続運用されており、木星内部磁気圏の長期観測が可能である。実際に2015年1月下旬から4月上旬の約二か月間にわたって、イオからのプラズマ供給の増加に伴うIPTの空間分布の変化が捉えられている[Tsuchiya et al., 2018; Yoshioka et al., 2018]。
本研究ではイオ起源の主要な重イオン(O+,O2+,O3+,S+,S2+,S3+,S4+)の質量およびエネルギーの収支と動径方向輸送の時間発展を追跡可能なモデルをFokker-Planck方程式に基づき開発した。方程式系はDelamere et al.(2005)が開発した定常状態の磁気圏プラズマの質量およびエネルギー輸送モデルを基に、Forward Time Central Space(FTCS)法により差分化した。動径方向のグリッド間隔を指数関数的に設定することで、広い動径範囲で適切にCourant条件を満たしながらより少ない時間で動径方向に詳細な計算結果を得ることが可能となった。内側境界条件としてイオの公転軌道である5.9RJで密度および温度の空間微分を0で与え、外側境界条件は30RJ近傍で密度、温度ともにひさき観測結果の外挿値で固定した。イオン、電子間の化学的な相互作用はDelamere & Bagenal (2003)で用いられている電荷交換、電子衝突電離、電子再結合、クーロン相互作用を考慮し、電子衝突励起による体積放射率はCHIANTI原子データベースを利用して算出した。なお、各イオン種と熱的電子の温度、密度の初期値は、イオ火山活動が静穏であった2013年11月のひさき衛星観測結果[Yoshioka et al., 2018]を用いた。中性原子(O,S)密度の空間分布はひさき観測結果を初期値として与えたほか、単位時間・単位体積あたりに磁気圏に流入する中性原子の総数と酸素・硫黄原子の組成比をパラメータとした。
この設定の下で本モデルの妥当性を検証するため、6-10RJの領域における各イオン種と電子の定常状態の温度、密度をひさき衛星の観測結果と比較した。イオン密度は高価数ほど観測値より少なく計算され、S+を除くイオン温度は観測同様100eV程度で安定し、S+は200eV程度と観測より高温となった。
さらに、中性原子の酸素・硫黄組成比と流入量、拡散係数をパラメータとし、ひさき観測に最も合致する値を求めた。この結果、酸素・硫黄比が2.0、流入量、拡散係数はイオ近傍でそれぞれ5.0×10-4 (/m3/s)、4.2×10-7 (/sec)と見積もられた。この結果はSO2を主要大気組成とするイオプラズマにおいて整合的である。また中性原子流入量の変動を再現することで、イオ火山活動活発期のIPT発光変動との比較を行った。今後、得られた拡散係数についてSiscoe&Summers(1981)の数値解析に基づく拡散係数との比較を行うことで、定量的な検証を目指す。本発表では作成したモデルの詳細なアップデートおよび各パラメータの定量的な検証結果とひさき観測結果との対応ついて述べる。